まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

今月のお薦め

姜尚中(総監修)「アジア人物史10 民族解放の夢」集英社

アジア人物史10巻は19世紀から20世紀、帝国主義の時代にアジアの人々がいかに対応していったのかを,非常に広い範囲の人物を取り上げながら描いていきます。扱われる人物の幅の広さは他の巻と同様に非常に広く、政治に関係した人物だけでなく、思想・文化に…

ディオドロス(森谷公俊訳註)「アレクサンドロス大王の歴史」河出書房新社

20世紀末から21世紀の日本でアレクサンドロス研究を担ってきた森谷先生は最近大王に関する史料の邦訳をまとめて単行本に出したり、東征路の実地検分を元にイランでの遠征路などを復元しようとするなど、様々な活動を展開しています。そうした活動の一つとし…

杉本陽奈子「古代ギリシアと商業ネットワーク」京都大学学術出版会

古代ギリシアのポリス世界というと、武装自弁で軍役を果たす市民が政治に参加する世界として知られています。そんな市民の多くは土地を持ち、農業を行う、あるいは商工業を営むと言った形で生計を立てている者が多く見られます。しかし、商業活動に関わる、…

新見まどか「唐帝国の滅亡と東部ユーラシア」思文閣出版

唐の歴史は安史の乱の前と後で大きく代わると言うことは言われています。前半の頭部ユーラシアの「世界帝国」という感じだった時と比べ、後半になると唐は藩鎮の割拠や対外的劣勢などのなか、中国型王朝へと転換していくと言うことが言われています。人によ…

ローラン・ビネ(橘明美訳)「文明交錯」東京創元社

新大陸と旧大陸の結びつき、世界史の始まり、大航海時代とその後の動きについて伊はそのように言われたりもしています。一方でこの過程を通じ、ヨーロッパにより新大陸のアステカ帝国、インカ帝国が征服され、さらに新大陸の先住民が疫病により打撃を受けた…

姜尚中(総監修)「アジア人物史2 世界宗教圏の誕生と割拠する東アジア」集英社

アジア人物史2巻は2世紀から7世紀、それも仏教の展開に関係する南アジアの事柄(上座部仏教、大乗仏教の成立や発展)と、東アジアを中心とした内容となっています。扱われる人物もナーガールジュナ、ブッダゴーサ、ムハンマドといったところをのぞくと、すべ…

森部豊「唐 東ユーラシアの大帝国」中央公論新社(中公新書)

中国の歴史のなかで、唐の時代というと日本との関係では遣唐使の派遣、様々な文物の受容、鑑真の渡来など、さまざまなことがあがるかと思います。また、現代においても李白や杜甫の漢詩は漢文の授業で習ったりもしますし、「貞観政要」をリーダー論の書籍と…

井上文則「軍と兵士のローマ帝国」岩波書店(岩波新書)

古代ローマの軍事を扱った書籍はいくつかありますが、共和政期の市民軍からマリウスの軍制改革により職業軍人化の道が開け、内乱の1世紀をへて帝国が樹立されると常備軍となり、元首政期、常備軍化した軍団兵は辺境を中心に配備されたといった、帝政前期のあ…

シオドラ・ゴス(原島文世訳)「メアリ・ジキルと怪物淑女たちの欧州旅行(1ウィーン篇、2ブダペスト篇)」早川書房

ジキル博士の娘メアリと、その妹でハイドの娘ダイアナ、そのほかマッドサイエンティストの「娘たち」の活躍と「アテナ・クラブ」の結成を描いた「メアリ・ジキルとマッドサイエンティストの娘たち」、その最後の方ででてきたヴァン・ヘルシング博士の娘とい…

大月康弘「ユスティニアヌス大帝」山川出版社(世界史リブレット人)

世界史リブレット人の新刊は東ローマ皇帝ユスティニアヌスを取り上げています。世界史でも「ローマ法大全」の編纂、ローマ帝国の領土の再征服戦争、そしてハギア・ソフィア聖堂(これは再建ですが)と言ったことが取り上げられる人物です。 本書では、皇后テ…

姜尚中(総監修)「アジア人物史1 神話世界と古代帝国」集英社

集英社のアジア人物史の1巻は古代世界を扱います。各地の神話の部分から話を始めますが、ここで結構ページをさいています。その後西アジア、東アジア、北アジア、南アジア、東南アジアといった各地の人物を扱いながら歴史を書いていきます。 やはり、史料的…

ピエルドメニコ・パッカラリオ、フェデリーコ・タッディア(浅野典夫監修・森敦子訳)「だれが歴史を書いてるの?」太郎次郎社エディタス

歴史を書くと言うことについて、歴史学入門といった本は数々あります。しかし基本的にそれは大人向けのものがおおいと言う具合でした。しかし、本書は児童文学作家が本職の歴史研究者の監修を受けつつ,子どもでも分かるように歴史学についてまとめています…

ディーノ・ブッツァーティ(安家達也訳)「ブッツァーティのジロ帯同記 1949年、コッピ対バルタリのジロ・ディ・イタリアを追う」未知谷

ディーノ・ブッツァーティというと、なんとも不思議な幻想的な話を読んだ記憶があるイタリアの作家です。「神を見た犬」「タタール人の砂漠」など、ここで感想を書いていたような記憶もあります(なかったらごめんなさい)。そんなブッツァーティが第2次大戦…

フィリップ・マティザック(高畠純夫監訳、安原和見訳)「古代ギリシア人の24時間 よみがえる栄光のアテネ」河出書房新社

時代はペロポネソス戦争時代、ニキアスの平和のもとつかの間の平穏を取り戻したアテネにおいて、当時の人々がどのような暮らしを送っていたのか。市井の人々の暮らしぶりを描いていきます。設定として、1日を1時間ごとに区切って章を構成し、各章1人の主人公…

エドワード・ケアリー(古屋美登里訳)「望楼館追想」東京創元社(創元文芸文庫)

(1月に読んだ本ですが、感想を書くのが遅くなりました。) かつては邸宅だったが、それが改造されてできた集合住宅の望楼館、そこには不思議な人々が住んでいました。人の言葉をわかるかどうかも怪しくなった犬のように生きる女性、ずっとテレビを見ていて…

姜尚中(総監修)「アジア人物史 第8巻 アジアのかたちの完成」集英社

(1月に読んだ本ですが、感想を書くのが遅くなりました) シリーズものとして、人物を通じて通史を描いていこうとするアジア人物史の8巻は17世紀から19世紀、アジア各地域がヨーロッパ近代世界と相対するようになる巻です。繁栄の時代を迎えていたアジア諸地…

パット・バーカー(北村みちよ訳)「女たちの沈黙」早川書房

(1月に読んだ本ですが、感想書くのが遅くなりました) ホメロスのトロイア戦争を題材とした叙事詩『イリアス』『オデュッセイア』というと西洋の古典文学としてその名前が真っ先に挙がるものであると思います。イリアスについてはトロイア戦争最後の1年のそ…

ニー・ヴォ(金子ゆき子訳)「塩と運命の皇后」集英社(集英社文庫)

昨年度の色々な人のベスト本を見ているとき、複数の方が挙げている本はどんな感じなんだろうと思って手に取ることがあります。これもそのような形で手に取ってみた本ですが、2本の長編が納められていました。執筆歴はそれ程長くないようですが、評価も高いよ…

姜尚中(総監修)「アジア人物史 第7巻 近世の帝国の繁栄とヨーロッパ」集英社

集英社から歴史のシリーズものが刊行される,それも人物中心西ながら過去の歴史を見るということで,果たしてどのようなものなのか楽しみにしていました。そして昨年末、2巻同時刊行という形で始まったのが「アジア人物史」シリーズです。 今回、感想を書い…

大沼由布、徳永聡子(編)「旅するナラティヴ 西洋中世を巡る移動の諸相」知泉書館

人はその一生において様々な形で「旅」に関わることがあるものだと思います。実際に自分がどこかに移動するだけでなく、誰かが残した旅の記録を読むという事もあるでしょう。また、人が実際に動くということだけではなく、人生を旅になぞらえることもありま…

澤田典子「古代マケドニア王国史研究」東京大学出版会

古代マケドニア王国の研究というと、アレクサンドロス大王の時代については多くの著作が見られますし、日本でも森谷先生の著作や澤田先生のちくまプリマー新書の一冊などが手に入ります。いっぽう、アレクサンドロス大王の父親であるフィリッポス2世について…

木曽明子「弁論の世紀 古代ギリシアのもう一つの戦場」京都大学学術出版会

古代ギリシアの文化というと、アテナイで上演された悲劇や喜劇、プラトンやアリストテレスの哲学、そしてホメロスの叙事詩といったものはよくとりあげられます。しかし、当時のギリシア人たちの政治や社会生活に大きな影響を持つものとして弁論があげられま…

イーライ・ブラウン(三角和代訳)「シナモンとガンパウダー」東京創元社

(本当は9月のお薦めにすべきだったのですが時間的に感想が間に合わず10月にしました) 時は1819年、イギリスのペンドルトン貿易会社の社長が海賊に襲撃されて死亡、社長の下で働いていた料理人は海賊団に連れ去られました。リーダーである、赤毛の女海賊団…

橋場弦「古代ギリシアの民主政」岩波書店(岩波新書)

古代ギリシア、特にアテナイで発展した民主政は平等な市民が順繰りに支配・被支配を経験するという点でかなりめずらしい体制のようです。一方、古代ギリシアの哲学者や著述家たちからかなり否定的な捉え方がされ、古代の文献を読める後世のエリート層に反民…

林采成「飲食朝鮮 帝国の中の「食」経済史」名古屋大学出版会

日本が植民地として組み込んだ朝鮮半島は日本に食糧を供給しており、朝鮮の米が日本の内地へと運ばれていたことなどはしばしば言及されることもあります。では、米以外のものはどうだったのか。植民地朝鮮の食料の生産−加工・流通−消費の流れが「帝国」日本…

Pat Wheatley and Charlotte Dunn 「Demetrius the Besieger」Oxford University Press

アレクサンドロス大王の死後、大王麾下の武将たちの角逐を通じて征服地は分かれ、ヘレニズム世界が形成されていきました。諸将角逐のなか、一際目立つ存在がデメトリオス・ポリオルケテス(都市攻囲者)でしょう。巨大な攻城機を戦場に投入して大々的に攻め…

周藤芳幸(編)「古代地中海世界と文化的記憶」山川出版社

西洋古代史研究というと、古代ギリシア史・古代ローマ史とすぐに上がる人が多いと思います。そして一つの歴史的世界として「古代地中海世界」というまとめがなされることもあります。しかし、「古代地中海世界」というとき、ギリシアとローマだけで事足りる…

オーレル・スタイン/アリアーノス(前田龍彦訳)「アレクサンドロス古道」同朋舎

19世紀後半から20世紀前半、西洋諸国による各地の探検活動が各地で行われ、中央アジアなどユーラシア内陸部においてはヘディン、スタインの探検活動が有名です。さまよえる湖ことロプノール、各地の仏教遺跡など、非常に興味深い事柄が彼らの探検を通じて知…

中野勝郎「ワシントン」山川出版社(世界史リブレット人)

山川出版社から出ている「世界史リブレット人」も大部多くの巻が刊行されてきました。今回はアメリカ合衆国初代大統領ワシントンです。合衆国初代大統領、アメリカのお札にも肖像画が載っているということで、その名前や顔は見たことがある人が多いと思いま…

木村靖二(編)「1919年 現代への模索」山川出版社(歴史の転換期)

山川出版社の「歴史の転換期」シリーズも残すところあとわずかとなってきました。今回出たのは1919年、現代という未だ人によって評価や判断の基準が定まらない時期をあつかいます。 「現代とは何か」といわれたときに、これだという明確な指標や定義という者…