まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

姜尚中(総監修)「アジア人物史 第7巻 近世の帝国の繁栄とヨーロッパ」集英社

集英社から歴史のシリーズものが刊行される,それも人物中心西ながら過去の歴史を見るということで,果たしてどのようなものなのか楽しみにしていました。そして昨年末、2巻同時刊行という形で始まったのが「アジア人物史」シリーズです。

今回、感想を書いている第7巻は16世紀から18世紀、同時に出た第8巻は17世紀から19世紀という具合に重なっている部分もあります。まずは7巻、「近世」のアジアにおいて西アジア、東アジア、東南アジア、南アジア、各地域でどのような動きが見られたのかが扱われています。そしてこの時代のアジアはヨーロッパからの来訪者がやってきた時代でもありますが、アジアとヨーロッパの接触が見られたこの時代、人々がどのような動きを見せたのかにもふれていきます。

このように書くと、よくある概説書っぽい感じになっていますが、本シリーズではそれを人物を軸に据えて描き出していきます。柱に据える人物2人くらい、そして関係の深い人物と多くの人々の長短様々な人物伝を織り交ぜながら描き出しています。

西アジアではサファヴィー朝(イスマーイール1世とアッバース1世が柱、タフマースプ1世とハイルニンサー・ベグム二頁を割きつつ、多くの人物を取り上げる)、オスマン帝国(セリム1世、スレイマン1世、そして17世紀の群像という具合)、インドではアクバルを軸に据えつつムガルの興隆と衰退、そして明清交代期を鄭氏一族と康熙帝,それに関わる多くの人々という具合で書かれています。

また、この時代であればヨーロッパからやってきたイエズス会宣教師たちの動向も重要ですが、これについても1章が割かれています。イエズス会というとスペイン、ポルトガルといった国家のアジア進出時の尖兵のように見られがちですが、彼らと国家の関係はそんな単純なものでなく緊張をはらんだものであったこと、そして彼らの活動が国家頼みというわけでもなく現地に滞在するヨーロッパ系の人々の支えに依る所がかなりあったことが本書では示されています。イエズス会とその活動について、視点を一新する内容だと思いますので、是非とも読んでみて欲しいと思います。

そして、アジアの人物史ということで日本も当然対象にふくまれます。日本の戦国時代の人々の動向と世界との関わりについてもコンパクトにまとめられています。世界の中での日本、日本と世界の結びつき、その辺りについての理解も深まるのではないでしょうか。

さらに本シリーズでは文化史に関わる記述がかなり多くの頁を割いて書かれていますし、朝鮮儒学の展開だけで1章、中国の考証学とその周辺で1章という力の入れようです。歴史のシリーズものというと,かつてであれば政治史、最近であれば社会史、経済史といったことがメインとされて、文化史、特に思想や学術関係はおまけであればまだ良い方、まともに扱われていないこともあるというのが歴史の本でよく見られる展開だろうとおもいます。しかし単なる人物と事項の羅列になりそうな思想や学術についても、アジア各地での展開をコンパクトにまとめていたり、1章を割いたりしながら書いてあるというのは非常に重要なポイントだと思います。

なお、本書は章ごとに地域が変わりますが、当然複数の地域にまたがって活動していた人々もおります。それについては重複する人物も当然出てきます。同じ人物が複数の章に分かれて登場するところをどう見るのか,それは人それぞれかと思います。しかし視点が少しずつ違っており、一人の人物についてもより立体的に捉えられると思いますので、このような構成もありだろうと思います(ホンタイジ徳川家康、あとは確か山田長政も2回登場していたかと)。

一冊700頁を超えるボリュームですが、各章ごとに内容がかわり、色々な視点から描かれる近世アジアの歴史はなかなか面白く読めました。人物中心というと古くさいとか、あえて人物を外して書くことが良いかのように語る人もいますが、多くの人に興味を持ってもらいやすいのは人々がどのように生きたのか,どのように行動したのかと行ったところだと思います。今回の7巻は昨年末に感想を書こうと思いましたが間に合わず今書いていますが、このシリーズ、他の巻も期待して良さそうです。なかなか早く読める本ではないと思いますが、読み次第感想をアップしていこうと思います。