まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

2012-01-01から1年間の記事一覧

大戸千之「歴史と事実」京都大学学術出版会

歴史学に対するポストモダンの立場からの批判が一時期流行っていたことがあります。史料に基づき客観的な事実を取り出して過去の出来事を描き出し、それを 私たちに伝え、更新するということが歴史学として行われてきたことです。それに対し歴史はそれぞれの…

ジュリアン・バーンズ(土屋政雄訳)「終わりの感覚」新潮社

主人公トニーの元に、見知らぬ弁護士より連絡があり、別れた恋人ベロニカの母親の遺言により、500ポンドと、若くして自殺した友人にして、ベロニカの次 の交際相手となったエイドリアンの日記が託されます。なぜ親友の日記が交際相手の母親の処にあるのか、…

今年のベスト

今年読んだ本のなかで面白かった物をあげていこうとおもいます。 並べ方には特に意味はないですが、この10冊にしました。 ウィリアム・フォークナー「アブサロム、アブサロム!」(上下巻) 根津由喜夫「ビザンツ貴族と皇帝政権」 森谷公俊「アレクサンドロ…

阿刀田高「獅子王アレクサンドロス」講談社(講談社文庫)

阿刀田高さんというと、数多くの小説やショートショート、エッセイから古典をわかりやすく紹介するような本まで色々と書いています。そんな阿刀田高さんが アレクサンドロス大王を主人公とした小説をかいています。基本的に、アレクサンドロスについて史実を…

スティーヴン・グリーンブラット(河野純治訳)「一四一七年、その一冊がすべてを変えた」柏書房

1417年、南ドイツのある修道院にて、元教皇秘書にしてブックハンターであるポッジョによって一冊の写本が発見されました。原子論など極めて刺激的な内 容を含むルクレティウス「物の本質について」は、やがて書き写され、ポッジョ以外の人文主義者達にも読ま…

12月の読書

今年も残り少なくなってきました。そのうち、今年のベストは掲載します。 其れとは別に、今月読んでいる物はこのような物です。 *実は、先月読み終わって、感想を書こうと思いつつ忘れてしまった物があります。ちかいうちにアップします。 オルハン・パムク…

ミハイル・シーシキン(奈倉有里訳)「手紙」新潮社

ワロージャとサーシャは恋人同士、一緒に過ごしたこともありますが、やがて二人は別々の処へ。そしてこの二人の手紙のやりとりという形で話が進んでいきま す。しかし読んでいると何やら不思議な感じがしてきます。それもそのはず、サーシャは現代のロシアで…

フラウィオス・アッリアノス(大牟田章訳)「アレクサンドロス大王東征記」岩波書店(岩波文庫)

私のメインのサイトでは、マケドニア王国史や漫画「ヒストリエ」に関係する話題を扱ったコーナーがあります。古代のマケドニア王国史というと、アレクサン ドロス大王が何よりも有名ですが、彼について同時代に書き残されたものはごくわずかしかないようです…

11月の読書

11月になりました。今年もあと1ヶ月と少しと言うことですね。 さて、11月はこんな感じの物を読んでいます。 大戸千之「歴史と事実」京都大学学術出版会:読書中 スティーヴン・グリーンブラット「一四一七年、その一冊がすべてを変えた」柏書房:読了 ルーカ…

オリバー・ペチュ(猪股和夫訳)「首斬り人の娘」早川書房(ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

時は1659年、アウクスブルクの近くにある街ショーンガウにて、子どもが殺害されました。やがて遺体に書かれたマークの存在から、村人達は魔女の仕業だ と判断、子ども達が良く出入りしていた産婆のマルタが捕らえられます。しかしこの町の処刑人クィズル、そ…

10月の読書

今月はこんな感じで本を読んでいます。最後に挙げたアイスキネスは、デモステネスと組み合わせて読むと面白いんじゃないかなと思います。おなじ出版社からでているデモステネスの弁論集2巻がちょうどアイスキネスと争ったときに行われた弁論が収録されていま…

デイヴィッド・ブロー(角敦子訳)「アッバース大王」中央公論新社

原書のタイトルには、サブタイトルとして「現代イランの基礎を築いた苛烈なるシャー」という言葉がそれられています。前近代イスラム世界の大国というとオ スマン帝国があげられます。東地中海世界一体をおさえ、ヨーロッパ諸国を脅かした大国ですが、そのオ…

9月の読書

9月はこんな本を読んでいます。 納富信留「プラトン 理想国の現在」慶應義塾大学出版会:読了 デイヴィッド・ブロー「アッバース大王」中央公論新社:読了 プラトン「ソクラテスの弁明」光文社(古典新訳文庫):読了 フーコー「知の考古学」河出書房(河出…

ショレム・アレイヘム(西成彦訳)「牛乳屋テヴィエ」岩波書店(岩波文庫)

ウクライナのユダヤ人集落に暮らすテヴィエは牛乳屋として生計を立て、妻と娘達に囲まれながら、大金持ちというわけではないけれどもそれなりに生きていく事ができています。そんな彼が著者に手紙で自分の身の回りに起きた事を語るスタイルで書かれた話がま…

コルム・トビーン(栩木 伸明訳)「ブルックリン」白水社

時代は第二次大戦後、主人公のアイリーシュがアイルランドのエニスコーシーからブルックリンへ渡り、苦しいことや楽しいことをいろいろと経験し、やがてダ ンスパーティで出会ったイタリア系移民のトニーと恋をし、そしてある出来事をきっかけに帰郷するが、…

指昭博(編)「ヘンリ8世の迷宮 イギリスのルネサンス君主」昭和堂

本当は7月中にアップする予定でしたが、大幅に遅れました。 ヘンリ8世というと、宗教改革とか、6人の奥さんとか、そういう話が良く出てきます。ここ数年の間だと日本でも「ブーリン家の姉妹」とかででてきたり、海 外ドラマでTudorsというのがCSかなにかで…

オルハン・パムク(宮下遼訳)「わたしの名は赤」早川書房(ハヤカワepi文庫)

本当は7月に読み終わったので、7月のお薦めに入れるべきなのですが、記事を書く暇が無く8月にアップすることになりました。 ノーベル文学賞受賞作家オルハン・パムクの日本で最初に翻訳された作品がこの「わたしの名は赤(最初に翻訳されたときは「わたしの…

8月の読書

8月はこんな感じ。 ・小川剛生「足利義満」中央公論新社(中公新書):読了 ・マルセル・シュウォッブ「少年十字軍」王国社:読了 ・ミルトン「失楽園(上)(下)」岩波書店(岩波文庫):読了 ・ショレム・アレイヘム「牛乳屋テヴィエ」岩波書店(岩波文庫…

7月のお薦めについて

7月は、河合望「ツタンカーメン 少年王の謎」をおすすめとしてとりあげています。他にもおもしろかった本はあるのですが、ここのところ忙しく、記事をアップする余裕がありません。なので、8月に入ってから7月のお薦めを追加でアップすることになると思いま…

河合望「ツタンカーメン 少年王の謎」集英社(集英社新書)

2012年の夏に、上野でツタンカーメン王関連の展覧会が開かれます。かなり昔に黄金のマスクが来て以来となるツタンカーメン展ですが(黄金のマスクは来 ないです)、それに関連して古代エジプト関連の書籍も数多く出版されています。この本もその一つですが、…

7月の読書

7月はこんな感じ 指 昭博(編)「ヘンリ8世の迷宮」昭和堂:読了 オルハン・パムク「私の名は赤(下)」早川書房(ハヤカワepi文庫):読了 オルハン・パムク「私の名は赤(上)」早川書房(ハヤカワepi文庫):読了 ジョージ・R・R・マーティン「王狼たち…

仲丸英起「名誉としての議席 近世イングランドの議会と統治構造」慶應義塾大学出版会

日本の政治家達の中には大臣になれれば何でもいいという感じの人、単にえらくなれればいいと思っている人達も見られます。彼らを見ていると、一体何のため に議員をやっているのかと問い糾してみたい思いに駆られることもあります。議会政治というとよくその…

6月の読書

6月はこんな本を読んでいます。 仲丸英起「名誉としての議席」慶應義塾大学出版会:読了 池上英洋「ルネサンス 歴史と芸術の物語」光文社(光文社新書):読了 ニール・マクレガー「100のモノが語る世界歴史2」筑摩書房(筑摩選書):読了 本村凌二「古代ロ…

ジョージ・R・R・マーティン(岡部宏之訳)「七王国の玉座(改訂新版)」早川書房(早川文庫)

*改訂を改訳と書いてしまいました。ごめんなさい。 季節の変動が年単位でおこるウェスタロス大陸、そこで長年王座に就いてきたターガリエン家のエイリス“狂王”を諸侯たちが倒し、バラシオン家のロバートを王としてから有力諸侯の間の微妙なバランスの上に安…

5月の読書

5月はこんな感じで本を読んでいます。 川島浩平「人種とスポーツ」中央公論新社(中公新書):読了 クルティウス・ルフス「アレクサンドロス大王伝」京都大学学術出版会:読了 ジェラルディン・ブルックス「古書の来歴(下)」武田ランダムハウスジャパン:…

森谷公俊「アレクサンドロスとオリュンピアス 大王の母、光輝と波乱の生涯」筑摩書房(ちくま学芸文庫)

古代マケドニアというとアレクサンドロス大王についての研究が多かったものの、やがてマケドニア王国の政治や社会、そしてアレクサンドロス以外の人々につ いても研究が進んでいます。本書ではアレクサンドロス関係の多くの著作を残している森谷公俊先生が10…

4月の読書

先月は、特に感想を書こうという気分になる物は無かったのですが、今月はどうなりますか。とりあえず以下のような感じで読んでいます。 白幡俊輔「軍事技術者のイタリア・ルネサンス」思文閣:読了 董啓章「地図集」河出書房新社:読了 ニール・マクレガー「…

3月は無しでいいかな

3月ですが、あまり本を読んでいないのと、これは是非読んで欲しいと思うような物に当たらなかったので、今月のお薦めは無しと言うことにしておこうかなと思います。まあ、こういうときもあるよね。

3月の読書

3月はまあこんな感じ。 野溝七生子「山梔」講談社(文藝文庫):読了 ウェレイユス・パテルクルス「ローマ世界の歴史」京都大学学術出版会:読了 トルストイ「コサック」光文社(古典新訳文庫):読了 シェイクスピア「コリオレイナス」白水社:読了 村田奈…

根津由喜夫「ビザンツ貴族と皇帝政権 コムネノス朝支配体制の成立過程」世界思想社

11世紀のビザンツ帝国は、ノルマン人やトルコ人の脅威にさらされたり、国内で反乱が多発した時期ということになっています。また、国内では、かつてはテ マ制に支えられた農民軍をもち皇帝が強力な力を発揮した中央集権的な時期に栄え、それがうまくいかなく…