まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

ショレム・アレイヘム(西成彦訳)「牛乳屋テヴィエ」岩波書店(岩波文庫)

ウクライナユダヤ人集落に暮らすテヴィエは牛乳屋として生計を立て、妻と娘達に囲まれながら、大金持ちというわけではないけれどもそれなりに生きていく事ができています。そんな彼が著者に手紙で自分の身の回りに起きた事を語るスタイルで書かれた話がまとめられています。

はじまりは、テヴィエがちょっとした事がきっかけでお金を手に入れ、やがて牝牛も手に入れて牛乳屋としてやっていくようになるまでの話。小さな親切がまさ かここまでの成果をもたらす事になるとはテヴィエも思っていなかったでしょう。では、いつもいつもテヴィエが何かを期待してうまくいくのかというと、そう は問屋がおろさない。次の話では、うまい儲け話に乗せられてお金を無駄にしてしまう話が出てきます。投機で儲けようという話をもちかけられ、それにのって しまったために大損してしまうのですが、ウクライナの地でもいろいろな情報をやりとりし投機活動が行われているという場面からは、通信手段の発展に伴う近 代における「世界の一体化」の進み具合に思いを巡らせる事もできるのではないでしょうか。

このあとは、テヴィエの娘達の話が中心になりますが、その前にテヴィエ自身がどう言う人なのかを軽く触れてみます。この物語において、テヴィエは半端な処 があったり所々で誤解もあるのですが聖書や律法、古典などから様々な文句を引用し、昔のしきたりというものを結構強調しています。昔ながらのユダヤ人集落 のしきたりや生活の習慣、決まりごとなどを守っていこうというテヴィエとしては、娘達にもそういうことは望んでいるようですが、娘達はテヴィエの期待と違 う方向へと向かっていきます。ある娘は貧しい仕立屋と恋仲になって結婚、またある者は革命家と結婚し流刑地へと旅立つ、そしてクリスチャンと結婚する娘ま で出てきます。

さらに、物語の終盤になると一番下の娘の結婚が原因で牛乳屋をやめることになったり、さらにテヴィエも含めユダヤ人達が集落を追い出させるようなことに なったりと、非常に厳しい出来事が次々に降りかかってきます。娘の結婚や彼を取り巻く状況はかなり大変な事になっているのですが、こう言う状況がテヴィエ のユーモラスな雰囲気の語り口で書かれているため、ついつい大変だなあ、でも頑張ってなどと無責任なことをつい思ってしまいました。ユーモアを交えて面白 く語っていないとやっていられないような状態だよなあ、この本で書かれている事って。

やがてアメリカでミュージカルや映画になり、日本でも故・森重久弥や西田敏行といった俳優の熱演で知られることになる「屋根の上のヴァイオリン弾き」、そ の原作にあたる小説が本書です。このタイトルと「屋根の上のヴァイオリン弾き」が全く結びつかず、さらに読んでいるときにどこにヴァイオリン弾きが出てく るのだろうかとおもって探してみましたが見つかりませんでしたが、背景については解説を読んで大体分かりました。本書の解説は舞台と原作の関係、著者の来 歴の他に、東欧のユダヤ人についても解説しており、色々と勉強になりました。