まずはこの辺は読んでみよう

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本村凌二「地中海世界の歴史1 神々のささやく世界」講談社(選書メチエ)

何の媒体で見たのか記憶は怪しいのですが、ローマ史の研究者で、一般向け著作も数多く出している本村先生が、かねてより地中海史をまとめて書くと言うことを考えていると言った話は、どこかで見たり聞いたりしたような気はします。しかしそれを見たのがもう十年位前、いやそれ以上前か、もはや記憶も定かではありません。

そして、そんなこともあったなと思っていたところ、ライフワークとして地中海世界の歴史を書くという話が2024年春に突如として現れました。全8巻、オリエント世界も含めた形での古代地中海世界の歴史を描き出すという,かなり野心的な企画がスタートしたとなると、当然これは買って読まねばならないと思い、早速購入してきました。

第1巻はメソポタミア文明エジプト文明をあつかいます。第1章でシュメール人都市国家ウルクなどを扱い、その後はアッカド人の国家、ウル第三王朝、そしてバビロニアといったメソポタミアに栄えた諸国の歴史をまとめます。第2章ではエジプトの歴史をナイル流域での統一国家誕生から古王国時代、中王国時代、新王国時代までが描かれます。第3章では地中海東岸エリアや小アジアを舞台としつつ、大国衰亡とヘブライ人や海の民、フェニキア人の活動を扱うという構成です。

1章から3章については、個人的にはエジプト新王国と争ったヒッタイトについてもっと多く書いても良かったのではないか、ヒクソスについての記述が複数のパートに分かれて登場しますが,もう少しまとめても良かったのではないかといったところは気になりました。しかし全体としては著者が専門外と言うことで、他分野の専門家のチェックをうけつつ、関連文献をもとに手堅くまとめたという印象が強いです。

手堅くまとめたという印象が強い地域ごとの歴史をまとめた章のあと、第4章「神々の声がきこえる」を迎えます。メソポタミアとエジプト、地中海東岸エリアの宗教について、神と人の関係などにふれつつ、神の存在を神の声・言葉として認識し、神の声を聞いていた世界としてオリエントをとらえる内容といったところです。このあたりの捉え方については、以前別の著作『多神教一神教』(岩波新書)でも触れていた二分心仮説を軸に据え、命令する神と従う人間の二分心からなるという説を参照しながら描こうとしています。この説の当否はさておき、かなり思い切った展開となっています。

第4章で二分心仮説を用いながらオリエントの神と人の関係を描き出すという、歴史書としてはかなり思い切った事を行いつつ、各地域の歴史についてはかなり堅実にまとめている、そんな感じの本でした。著者が書きたかったことは第4章の内容なのではないかなと言う気もしてきますが、次の巻でどのような展開を見せるのか楽しみにしたいところです。