まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

2019-01-01から1年間の記事一覧

今年のベスト

さて、そろそろ今年のベストを選ぶときが来たようです。 上半期と下半期の結果を基に色々考えてみたのですが、なかなか絞るのが難しく、苦労しました。しかし、なんとか約10冊の範囲内に収めてみようとした結果こういうことになりました。 エリザベス・ドネ…

千葉敏之(編著)「1187年 巨大信仰圏の出現」山川出版社(歴史の転換期)

山川出版社の「歴史の転換期」シリーズから中世史を扱った巻がでました。他に2冊ほどこのシリーズで中世を扱うものがあるようですが、今回は12世紀後半、大きな出来事としてはヒッティーンの戦いがあった年ということになります。サブタイトルに巨大信仰圏の…

下半期ベスト

さて、今年のベストを選ぶ前に、下半期ベストから行きましょうか。 アンナ・コムニニ「アレクシアス」リウトプランド「コンスタンティノープル使節記」パオロ・コニェッティ(他)「どこか、安心できる場所で」伊藤雅之「第一次マケドニア戦争とローマ・ヘレ…

アンナ・コムニニ(相野洋三訳)「アレクシアス」悠書館

東地中海世界で長く繁栄してきたビザンツ帝国も、11世紀後半になるとセルジューク朝の侵攻、そして度々発生する内訌などにより衰えてきていました。クーデタにより度々皇帝は地位を追われ、内紛が相次ぎ、さらに外部からの侵入者もやってくるという苦難の時…

リウトプランド(大月康弘訳・註)「コンスタンティノープル使節記」知泉書館

東フランク王オットーがローマ皇帝として教皇から戴冠された出来事は、世界史では「神聖ローマ帝国」の始まりとして取り上げられる結構重要な出来事です。しかし、当時の東地中海世界で繁栄期を迎えていたビザンツ帝国からすると、自分たちこそ唯一の「ロー…

パオロ・コニェッティ(他)(関口英子他訳)「どこか、安心できる場所で」国書刊行会

現代イタリア文学というと、タブッキ、ブッツァーティ、エーコ、ギンズブルグ、カルヴィーノといったあたりの作家があがることが多いと思います。しかしここにあげた人々の活動した時期はおもに20世紀(エーコは21世紀に書いたものもありますが)で、21世紀…

12月の読書

今年ももう一ヶ月で終わりです。はやいものです。 今月はこのような本を読んでいます。ベスト本とかもそろそろ考え始めてもいいかなと思いますが、今月は結構面白そうな本がでるようなので、どうしたものか。 ドメニコ・スタルノーネ(関口英子訳)「靴ひも…

伊藤雅之「第一次マケドニア戦争とローマ・ヘレニズム諸国の外交」山川出版社

ローマによる地中海世界の制覇の過程をみるときハンニバル擁するカルタゴとの第2次ポエニ戦争について触れられることは多いのですが、同時期に起きていた第1次マケドニア戦争に言及する事はあまり多くないようです。 第2次ポエニ戦争は戦の天才ハンニバル率…

マイケル・ワート(野口良平訳)「明治維新の敗者たち 小栗上野介をめぐる記憶と歴史」みすず書房

小栗上野介というと、幕末の志士を扱った物語では幕府側官僚として敵役のような扱いをされたり、悪役のような描かれ方をすることが多かったようです。また近代史を扱う本では、フランスに借款をして何とかしようとしたと言うことから売国の臣として描き、同…

11月の読書

今年もあと二ヶ月で終わってしまうんですね。早いな。 11月はアンナ・コムネナ「アレクシアス」が出るそうです。かなりいいお値段がしますが、買える人は是非書いましょう。こういうのが少しでも売れると、なんか他のもでるかもしれませんし。 それはさてお…

草原考古研究会(編)「ユーラシアの大草原を掘る」勉誠出版(アジア遊学)

世界の歴史においてユーラシア大陸内陸部の草原地帯の重要性は現在ではかなり多くの人々に認識されるようになっています。騎馬遊牧民たちが暮らし、時に大帝国が生まれ、「草原の道」を通じた東西の文物や人の流れが展開される、そうした歴史の研究は今も活…

10月の読書

10月は次のような本を読んでいます。そういえば、この10月でこのブログも13年目に突入か。時間が経つのは早いな。野村玄「徳川家康の神格化 新たな遺言の発見」平凡社:読了三鬼清一郎「大御所 徳川家康」中央公論新社(中公新書):読了鈴木成宗「発酵野郎…

スティーブ・ブルサッテ(黒川耕大訳・土屋健監修)「恐竜の世界史」みすず書房

恐竜についての研究というと、ここ四半世紀の間に驚異的な勢いで研究が進み、新しい成果が上がっている分野と言って良いでしょう。かつては恐竜というと鱗に覆われた変温動物で動きも鈍く、頭も悪い大型爬虫類という認識であり、復元された恐竜の姿も直立歩…

プルタルコス(城江良和訳)「英雄伝5」京都大学学術出版会(西洋古典叢書)

京都大学の西洋古典叢書から、プルタルコスの「モラリア」が全訳され、「英雄伝」も新訳の刊行が続いています。4巻目は「ヒストリエ 」でおなじみ(?)のエウメネスが登場しましたが、世界史で普通に名前が出てくるレベルの人というとポンペイウスくらいと…

9月の読書

9月はこのような本を読んでいます。 スティーブ・ブルサッテ「恐竜の世界史」みすず書房:読了 ジョージ・エリオット「サイラス・マーナー 」光文社(古典新訳文庫):読了 滝川幸司「菅原道真」中央公論新社(中公新書):読了 指昭博「キリスト教と死」中…

ジェニファー・イーガン(中谷友紀子訳)「マンハッタン・ビーチ」早川書房

世界恐慌発生後、1934年のアメリカはニューヨーク、エディ・ケリガンが12歳の娘アナを伴い、イタリア系ギャングのデクスター・スタイルズの邸宅を訪れるところから物語はスタートします。エディがデクスター邸を訪れたのは、体に障害がある次女のため車椅子…

岸本美緒(編)「1571年 銀の大流通と国家統合」山川出版社(歴史の転換期)

16世紀というと、大航海時代、そして世界各地の結びつきが強まりはじめる時代といえます。ヨーロッパの海外進出が進んだ時代であるともいえますし、中国における銀需要の増大が世界を結びつけたともいえるところもあります。さらに、この時代の東南アジアに…

大木毅「独ソ戦」岩波書店(岩波新書)

(7月に一度読み終わり、その時に感想を書こうと思ったのですが、時間が無く、もう一度読み直してから改めて感想を書いています) 軍事史というと、歴史学研究の世界では一寸色物扱いされたり、好事家的な読み物は結構多く出ていたりする分野です。第二次世…

8月の読書

8月になりましたが、このような本を読んでいます。7月は途中から色々読んでいたため、感想を書くのが追いついていない本があります。なので、8月にその辺の本の感想を書いて載せようかなと思います。 ジェニファー・イーガン「マンハッタン・ビーチ」早川書…

岩明均「ヒストリエ」第11巻、講談社

岩明均「ヒストリエ」の10巻がでたのが2017年春のこと。それからまつこと2年強、11巻がでました。その間、連載も結構休載が多く、再開されるのは2019年の秋らしいというスローペースですが、ようやく単行本が出て一安心です。 それはさておき、11巻はだいた…

チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ(くぼたのぞみ訳)「なにかが首のまわりに」河出書房新社(河出文庫)

近年では、アメリカの大学のクリエイティブライティングコースで学んだ、いろいろな国にルーツを持つ人々が作家として様々な作品を書き、それが邦訳されるものも多くなってきました。ただし、日本で読まれるそういう作家さんの本は多くはデビュー作で、それ…

7月の読書

もう7月ですね。今年も残り半分を切りました。頑張っていきましょう。 先月は上半期ベストを選びましたが、下半期ベスト、そして年間ベストは年末に選びます。さて、どんな本が入るやら。 そして、今月はこのような本を読んでいます。ボーデンの「アレクサン…

坪井祐司「ラッフルズ」山川出版社(世界史リブレット人)

シンガポールの高級ホテルとして名高いラッフルズ・ホテル、その名の由来となったのはシンガポールの創設者として知られるラッフルズです。しかし、彼がどのような生涯を送ったのかと聞かれると答えに困る人が多いのではないでしょうか。イギリスの植民地建…

上半期ベスト

上半期ベストはこの10冊エリザベス・ドネリー・カーニー「アルシノエ二世」張愛玲「中国が愛を知ったころ」小池登・佐藤昇・木原志乃(編著)「『英雄伝』の挑戦」川島重成・古澤ゆう子・小林薫(編)「ホメロス『イリアス』への招待」山之内克子「物語オ…

山之内克子「物語オーストリアの歴史」中央公論新社(中公新書)

オーストリアというと、面積は大体北海道と同じくらいの広さですが、首都のウィーンなどを中心に音楽と芸術が盛んであることや、ウィンタースポーツなどで知られている国だと思います。この国の歴史というと、ウィーンの起源となる都市が古代ローマに由来す…

ユーディト・W・タシュラー(浅井晶子訳)「国語教師」集英社

作家のクサヴァー・ザントは高校のワークショップの担当者である国語教師と連絡をとりました。そして元恋人マティルダが担当の国語教師であることを知ったクサヴァーはワークショップの相談をするべきところで昔を懐かしんで関係ない話を展開し始めます。そ…

6月の読書

今年ももう五ヶ月が過ぎ、もうすぐ半年が過ぎようとしています。そんな6月はこのような本を読んでいます。「国語教師」はオーストリア出身の作家の作品で、中公新書の「物語オーストリアの歴史」があったり、「チャンドス卿の手紙」があったり、1人オースト…

巽由樹子「ツァーリと大衆 近代ロシアの読書の社会史」東京大学出版会

19世紀後半のロシアにおいて、一般大衆が軽く読める週刊誌として、絵入り雑誌が多数刊行されるようになりました。もともとは西欧で刊行されていたタイプの雑誌ですが、これがロシアでも刊行されるようになり、多くの読者を得るようになりました。そこで扱わ…

ビアンカ・ベロヴァー(阿部賢一訳)「湖」河出書房新社

とある国の湖のほとりで生まれ育った少年ナミ。彼は親を知らず、祖父母に育てられています。ある時祖父は湖に漁に出ている時に遭難して帰らぬ人となり、祖母もまた湖の水位が日に日に下がっていく異常な状況でナミと別れることに。そんな町で悪友とつるんだ…

Angelos Chaniotis 「Age of Conquests」Harvard University Press

ヘレニズム時代というと、一般的にはアレクサンドロス大王の死からクレオパトラの死まで、紀元前323年から紀元前30年までを指すということになっていますし、概説書でもアレクサンドロス東征あたりの話から始めて、おわりがクレオパトラの死で終わるという形…