まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

2021-01-01から1年間の記事一覧

今年のベスト

今年のベストをそろそろ決めようと思いましたが、今年は例年以上に絞るのが難しかったです。色々と刺激を受けた本が多かったということも大きいですが、こうはんは冊数が減った割に面白いものに当たる率が高く、感想を大量に書いてしまったことが原因です。…

下半期ベスト

さて、下半期のベストからまず選びましょうか。11月と12月があまり本を読む時間が取れず、さっすはだいぶ減りましたが、面白いものに当たりました。むしろ選ぶのが大変になったような気がします。リュドミラ・ウリツカヤ(前田和泉訳)「緑の天幕」新潮社山…

リュドミラ・ウリツカヤ(前田和泉訳)「緑の天幕」新潮社

ソヴィエト社会主義共和国連邦がまだ外の世界からは輝きを持って見られていた頃、ある学校にてイリヤ、サーニャ、ミーハの3人が出会いました。3人とも学校社会のなかでは傍流に属する(今風に言えばスクールカースト下層か)ものの、如才なく振る舞うイリヤ…

山田貴司「ガラシャ つくられた「戦国のヒロイン」」平凡社

戦国時代に活躍した女性をあげろと言われると、数年前の大河ドラマをみていたり戦国時代に関心がある人だと、今年の春に本が出た寿桂尼の名があがるかもしれません(自分のブログでも感想を書きました)。しかし、一般的な知名度ではキリスト教に入信した大…

12月の読書

12月になりました。今年も気がつくと1ヶ月を切りました。はたしてどうなることやら。 今月はこんな感じで本を読んでいます。 リュドミラ・ウリツカヤ「緑の天幕」新潮社:読了山田貴司「ガラシャ つくられた「戦国のヒロイン」平凡社:読了香山陽坪「砂漠と…

柿沼陽平「古代中国の24時間」中央公論新社(中公新書)

歴史の本というと、政治や軍事に関する出来事の歴史であったり、グローバルヒストリーのような大まかな構造をつかむようなものであったり、そのような本がある一方で、日々の生活の様子を綴ったようなかなり細かい事柄を扱った本もあります。しかしそういう…

籾山明「増補版 漢帝国と辺境社会」志学社

漢帝国と匈奴の抗争の最前線となったエリアから、漢代の木簡が多数出土しています。そこには長城付近というフロンティアで暮らす人々の姿がうかがい知れる内容が記録されていました。そうした木簡や遺跡をもとにして、漢帝国の辺境支配の様子を描き出してい…

エドワード・J・ワッツ(中西恭子訳)「ヒュパティア 後期ローマ帝国の女性知識人」白水社

キリスト教が公認、やがて国教となっていく流れの中、伝統的多神教の信仰もなお続けられている後期ローマ帝国のアレクサンドリア。そこで優れた数学者・哲学者として活躍し、当時の政界や宗教界の要人となるような優れた弟子を輩出した女性がいました。そし…

篠原道法「古代アテナイ社会と外国人」関西学院大学出版会

古代ギリシアのポリスというと、世界史では大抵アテナイの事例がとりあげられます。アテナイというとポリスの可能性を極限まで実現した徹底した直接民主政ですとか、市民間の平等、奴隷制に立脚した社会、そして市民団の閉鎖性といったことがしばしば取り上…

11月の読書

11月になりました。ここのところ多忙につき読書ペースは大幅に落ちています。はてさてどうなるやら。それはさておき、こんな本を読んでいます。柿沼陽平「古代中国の24時間」中央公論新社(中公新書):読了籾山明「漢帝国と辺境社会」志学社:読了エドワード…

会田大輔「南北朝時代 五胡十六国から隋の統一まで」中央公論新社(中公新書)

魏・呉・蜀の三国鼎立は晋により統一され、中国は再び統一王朝による支配となりました。しかし晋による統一は短期間におわり、華北は五胡十六国時代と呼ばれる分裂の時代、江南以下南部では司馬氏による晋の支配という状況に突入します。4世紀の動乱の時代か…

ジョゼ・サラマーゴ(木下眞穂訳)「象の旅」書肆侃侃房

時は16世紀、海洋帝国ポルトガルの国王ジョアン3世はオーストリア大公マクシミリアンへの贈り物をどうするか考え、インド象を送ることにしました。その名もソロモンというインド象と象使いのスブッロは兵士達に守られながらリスボンを出てウィーンへ向かいま…

10月の読書

10月になりました。次のような本を読んでいます。ただ、秋冬は忙しくなるためペースは落ちるかとおもいます。なお、先月一度読んで、何度か読み返している本もあります。 会田大輔「南北朝時代」中央公論新社(中公新書):読了 ジョゼ・サラマーゴ「象の旅…

エリック・ジェイガー(栗木さつき訳)「最後の決闘裁判」早川書房(ハヤカワ文庫NF)

ヨーロッパを舞台とした物語では、「ローエングリン」序盤ではエルザが身の潔白を証明してくれる騎士が現れると言うと実際に彼女のために戦う騎士が登場し、スコット「アイヴァンホー」ではテンプル騎士団員誘惑の罪状で裁判で死刑判決をうけたユダヤ人レベ…

金原保夫「トラキアの考古学」同成社

古代ギリシア・マケドニアの歴史をあつかっていると、トラキアおよびトラキア人という用語はよく登場します。現在のブルガリアを中心に勢力を持っていた集団ですが、彼らについて日本語でまとまって読める文献というのはこれまで少なく、あるとすると展覧会…

森三樹三郎「梁の武帝 仏教王朝の悲劇」法蔵館(法蔵館文庫)

中国の南北朝時代の歴史を学ぶとき、南朝というと東晋以下宋斉梁陳という王朝が続き、貴族たちの力が強いということや貴族が担い手となる六朝文化といったことを習います。そのなかで、梁の武帝というと世界史用語的にはまず出てこない人物ですが(『文選』…

9月の読書

9月になりました。あっという間ですね。9月はこんな本を読んでいます。 阿部拓児「アケメネス朝ペルシア」中央公論新社(中公新書):読了伊藤俊一「荘園」中央公論新社(中公新書):読了エリック・ジェイガー「最後の決闘裁判」早川書房(ハヤカワ文庫NF)…

森山光太郎「隷王戦記2 カイクバードの裁定」早川書房(ハヤカワ文庫)

早川書房からこの春だされた「隷王戦記」、全3巻構成(予定)の第1巻では主人公カイエン・フルースィーヤが一敗地にまみれ、すべてを失ったところから再起し、バアルベクの新太守マイや仲間達と新たな目標に向けて歩み出すところで終わりました。それから1年…

井上文則「シルクロードとローマ帝国の興亡」文藝春秋(文春新書)

ユーラシア大陸の東西にローマ帝国と漢帝国が形成された時代、ユーラシアの東西を結ぶシルクロード交易が展開されました(なお、本書ではシルクロードをアジアとヨーロッパ、あるいはアフリカを結んだユーラシア大陸の交易路の総称として用いています)。そ…

フィリップ・リーヴ(井辻朱美訳)「アーサー王ここに眠る」東京創元社

アーサー王伝説というと、これまでに色々な翻案がなされ、様々な媒体で描き出されていますし、それに触発された作品も色々とみられます。多くの人々の創作意欲をかき立てるということでは、非常に大きな影響力を持つ物語だとおもいます。 本書もまた、アーサ…

8月の読書

8月になりました。こんな感じで本を読んでいます。 オーランド・ファイジズ「ナターシャの踊り(上)」白水社:読了柴宜弘「ユーゴスラビア現代史 新版」岩波書店(岩波文庫):読了高村聰史「〈軍港都市〉横須賀」吉川弘文館:読了菅豊「鷹将軍と鶴の味噌汁…

葛兆光(橋本昭典訳)「中国は“中国”なのか 「宅茲中国」のイメージと現実」東方書店

「中国」という言葉でイメージされる領域はどこからどこまでを指すのか。また中国をどのように捉えるのか。初出は紀元前11世紀の青銅器銘文である「中国」という言葉にはさまざまなイメージがこれまで投影されてきました。 「中国」とはなにかという問いに対…

ウォルター・テヴィス(小澤身和子訳)「クイーンズ・ギャンビット」新潮社(新潮文庫)

最近ではテレビや映画で最初に流されるのではなく、Netflixなど動画配信サービスからで配信された作品がテレビで放送されたり、アカデミー賞でも候補に挙がってくるなど、ネットでの動画配信が盛んになり、若い世代に関して言うと恐らくネット配信の方が中心…

7月の読書

7月です。もう今年も半分が終わりました。7月はこんな本を読んでいます。 大澤正昭「妻と娘の唐宋時代」東方書店:読了葛兆光(橋本昭典訳)「中国は“中国”なのか 「宅茲中国」のイメージと現実」東方書店:読了マルク・ブロック「封建社会」岩波書店:読了ウ…

福山佑子「ダムナティオ・メモリアエ」岩波書店

古代ローマ社会では、自らの業績を誇示するモニュメントや生前の業績を刻んだ墓碑、一族の祖先たちの蝋製肖像など様々な形で過去についてのメモリア(記録、記憶といったもの)が公に残されてきました。一方で、悪しき者とされたものについては、のちの研究…

上半期ベスト

6月もまだそれなりに残っていますが、仕事で色々と忙しく落ち着いて本を読めるか微妙な状況です。なので、もう上半期ベストを選んでみることにしました。 林美希「唐代前期北衙禁軍研究」汲古書院平田陽一郎「隋唐帝国形成期における軍事と外交」汲古書院小…

マデリン・ミラー(野沢佳織訳)「キルケ」作品社

ギリシアの叙事詩「オデュッセイア」に、キルケという魔女が登場します。オデュッセウスの部下たちに酒を飲ませて彼らを豚に変えたり、オデュッセウスには魔法が効かず、結局部下を人間に戻したことや、オデュッセウスが一年キルケのもとに滞在して一子テレ…

プルタルコス(城江良和訳)「英雄伝6」京都大学学術出版会(西洋古典叢書)

京都大学学術出版会会の西洋古典叢書からプルタルコス「英雄伝」の翻訳が出始めてから大部立ちました。途中で訳者の柳沼重剛先生がなくなられ、訳者の交替がありましたが無事6巻で完結と言うことになりました。最終刊の6巻では、デメトリオス・ポリオルケテ…

6月の読書

6月に入りました。こんな本を読んでいます。福山佑子「ダムナティオ・メモリアエ」岩波書店:読了(再読です)マデリン・ミラー「キルケ」作品社:読了デイヴィッド・W.アンソニー「馬、車輪、言語(下)」筑摩書房:読了デイヴィッド・W.アンソニー「馬、車…

合田昌史「大航海時代の群像」山川出版社(世界史リブレット人)

ヨーロッパから各地への航海がおこなわれ、ヨーロッパの人々の世界の認識の拡大と、海外への進出へとむかうきっかけとなった大航海時代は、近世の始まりとして位置づけられます。一方で、大航海時代のヨーロッパからの各地への進出を中世の十字軍やレコンキ…