まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

今年のベスト

今年のベストをそろそろ決めようと思いましたが、今年は例年以上に絞るのが難しかったです。色々と刺激を受けた本が多かったということも大きいですが、こうはんは冊数が減った割に面白いものに当たる率が高く、感想を大量に書いてしまったことが原因です。とりあえず四捨五入して10になる範囲内で絞ろうと思いましたが、結局こうなりました。さすがに20冊はどうかとおもったのですが、厳しいです、はい。

(1)ギリシアとかローマ関係 *(4)に回したものあり
岸本廣大「古代ギリシアの連邦 ポリスを超えた共同体」京都大学学術出版会
金原保夫「トラキアの考古学」同成社
佐良土茂樹「コーチングの哲学 スポーツと美徳」青土社
プルタルコス(城江良和訳)「英雄伝6」京都大学学術出版会(西洋古典叢書
*福山佑子「ダムナティオ・メモリアエ」岩波書店

自分の趣味嗜好からギリシア・ローマものは色々と手を出して読んでいました。そのなかから面白かったものを選ぶと、このようになりました。なお、*の「ダムナティオ・メモリアエ」の本は本当は昨年感想を書くべきものが大幅に遅れ、上半期に入れるのもできず、結局今年のベストに繰り越しとなりました。古代ギリシアの連邦について扱った本やトラキアのことを扱った本が読めたのは面白かったですし、アリストテレス倫理学とスポーツのコーチングを考えるというのもなかなか面白い趣向だと思いました。そしてプルタルコスが読みやすい文章で完全に訳されたのは実にありがたいことでした。

(2)歴史関係 *(4)に回したものあり
小島庸平「サラ金の歴史」中央公論新社中公新書
籾山明「増補版 漢帝国と辺境社会」志学
平田陽一郎「隋唐帝国形成期における軍事と外交」汲古書院
会田大輔「南北朝時代 五胡十六国から隋の統一まで」中央公論新社中公新書

ギリシア・ローマもの以外の歴史本もいくつか読んでいますが、その中で絞るとこのようになりました。現代日本に関する本をここに載せるというのは結構珍しいような気がしますが、「サラ金の歴史」は読んでほしいです。これ面白いです。そして復刊された「漢帝国と辺境社会」は同社からでている「木簡学入門」を合わせて読むとさらに理解が深まるような気がします。「隋唐帝国形成期における軍事と外交」は、隋唐の軍事に関してかなり刺激的な論を展開しており、今後参照されることになるだろうなあと思います。そして、隋の統一までを扱う「南北朝時代」はなかなか掴みにくいこの時代についてコンパクトにまとまっておりおすすめです。

(3)小説
ビアンカ・ピッツォルノ(中山エツコ訳)「ミシンの見る夢」河出書房新社
マデリン・ミラー(野沢佳織訳)「キルケ」作品社
リュドミラ・ウリツカヤ(前田和泉訳)「緑の天幕」新潮社
ウォルター・テヴィス(小澤身和子訳)「クィーンズ・ギャンビット」新潮社(新潮文庫
ジョゼ・サラマーゴ(木下眞穂訳)「象の旅」書肆侃侃房

小説もいくつか読み、絞ろうと思いましたがなかなか難しいですね。「隷王戦記」は3巻目が出てから評価はすべきかと思い外しております。やはり完結してから、トータルで評価をするべきかなと思いました。「ミシンの見る夢」「キルケ」「クィーンズ・ギャンビット」と女性を主人公とした本が多くなりましたが、色々と面白そうな本を見かけて読んでいたらそうなったと申しますか。今だからこそ書けたと思う本もあり、これがこんな昔に書かれたとは思うものもあり、実に充実した読書となりました。サラマーゴ「象の旅」はスペインからオーストリアに象を連れていくというだけなのですが、その合間に挟まれた挿話や出来事が後からじんわりと面白さを感じてくる、穏やかながらも後に響くような本でした。

(4)女性史関係
黒田基樹「今川のおんな家長 寿桂尼平凡社
山田貴司「ガラシャ つくられた「戦国のヒロイン」」平凡社
エドワード・J・ワッツ(中西恭子訳)「ヒュパティア 後期ローマ社会の女性知識人」白水社

歴史の書籍で女性の登場人物が扱われた本というのは、どうも少ないです。史料の制約もあり研究者の視点の取り方もありといったところが理由なのでしょうか。近年になって女性史研究が活況を呈しており、西洋古代史にせよ日本史にせよ、女性を扱った本は結構出されるようになっています。残された史料の偏向などを取り除きながら可能な限り生涯を描き出し、さらに死後どのように彼女が捉えられてきたのかを描く「ヒュパティア」「ガラシャ」は結構一般にも知られている人々のイメージがどのように形成されるのかを考えさせられます。そして「今川のおんな家長 寿桂尼」は寿桂尼の実像を描き出し、戦国時代にどのくらいの役割を果たしていたのかが示されています。そして「寿桂尼」のあとがきで示された問題意識はもっと広く共有されるべきことなのではないかと思います。