まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

2025-01-01から1年間の記事一覧

桜井万里子「古代ギリシア人の歴史」刀水書房

古代ギリシアの歴史というと、概説書ではたいていギリシア・ローマ史として一緒くたにされて扱われることが多いですし、各国史でもギリシア史ということで古い時代から現代までのなかで書かれたりします。数少ない例外は講談社学術文庫の「古代ギリシアの歴…

ニー・ヴォ(金子ゆき子訳)「歌う丘の聖職者」集英社(集英社文庫)

以前,此方のブログで中編2本を掲載した「塩と運命の皇后」を紹介しました。アジア風テイストで、物語や歴史を記録して回る聖職者とあらゆる事を記憶するヤツガシラのコンビを主人公として、各地で語られている物語と「正史」として語られていることの乖離が…

6月の読書

新年度を迎え,なかなか忙しく読書ペースは上がらず。上半期のベストを決めるとすると3月までの所の方が冊数多いからなあ、、、どうしたものか。 それはさておき、6月はこんな感じで読んでいます。あと、先月末に読んだ本で面白かったものがあり、それの感想…

鈴木開「世界史のリテラシー 朝鮮は、いかに「外患」を克服したのか」NHK出版

NHK出版から、「世界史のリテラシー」というシリーズが2年前から刊行されています。ジャンヌ・ダルクやカノッサの屈辱、コンスタンティノープル陥落といった有名どころから、部派仏教成立やレキシントン・コンコードの戦いなどかなり地味なところまで色々…

ザヘラ・モハッラミプール「「東洋」の変貌 近代日本の美術史像とペルシア」名古屋大学出版会

法隆寺の獅子狩文錦、正倉院の漆胡瓶や瑠璃腕など、西方由来の遺物が日本にも色々と残されています。これらのものについてはササン朝ペルシアの美術から受けた影響がみられるということがよく指摘され、ペルシアの美術が日本の美術の源流の一つをなしている…

5月の読書

5月になりました。5月はこんな感じで本を読んでいます。 先月読んだもので面白いけどなかなか感想が書けない本もあります。それをどうするか。 ニー・ヴォ「歌う丘の聖職者」集英社(集英社文庫):読了 「建築知識」2025年6月号:読了 マーガレット・アトウ…

古泉迦十「崑崙奴」星海社

時は唐の後半、安史の乱のあと、徐々に衰えているとはいえ東部ユーラシアの大国として君臨していた頃のこと、都の長安では凄惨かつ奇怪な殺人事件が立て続けに起こっていました。犠牲者が腹を十字に割かれて、臓腑が取り出されている、普通ではない殺され方…

本村凌二「地中海世界の歴史6 「われらが海」の覇権」講談社(選書メチエ)

本村先生の「地中海世界の歴史」も6巻まで来ました。この巻ではいわゆる「内乱の1世紀」から元首政の成立、そしてユリウス=クラウディウス朝の終わり辺りまでを扱っています。ローマ史のなかでもエピソード豊富で派手な感じの時期ですが、本書でも共和政末…

デイヴィッド・ポッター(井上浩一訳)「テオドラ:女優からビザンツ皇后、聖人へ」白水社

東ローマ帝国(ビザンツ帝国)のユスティニアヌス帝の皇后テオドラというと、踊り子から皇后まで上り詰めるというキャリア、そしてニカの乱にて都を逃げようとするユスティニアヌスに対してかけた「帝衣は最高の死装束」という発破、サン=ヴィターレ聖堂の…

4月の読書

忙しさにかまけすっかり忘れていました。 4月はこの様な感じで本を読んでいます。なお、3月末に読み終えた「テオドラ」の感想はまだ書き終わっておりません(→書き終わりました。えらいかかった)。 ザヘラ・モハッラミプール「「東洋」の変貌」名古屋大学出…

張愛玲(濱田麻矢訳)「半生の絆」早川書房

1930年代初頭の上海、南京からやってきて工場勤めをする世鈞は友人の叔恵の知り合いだった曼楨と出逢います。最初の頃は叔慶を含めた3人でご飯を食べに行ったりする関係だったのが、ちょっとした機会が重なるごとに二人の距離が縮みはじめ、やがて二人は恋…

澤田典子「古代マケドニア全史 フィリッポスとアレクサンドロスの王国」講談社(選書メチエ)

古代マケドニア研究というと、数少ない現役の研究者である澤田先生が「アレクサンドロス大王(世界史リブレット人)」、「よみがえる天才4 アレクサンドロス大王」、「古代マケドニア王国史研究」、「アテネ最期の輝き」、「アテネ民主政」など色々な本を書…

荒川正晴「ユーラシアの交通・交易と唐帝国」名古屋大学出版会

7世紀から8世紀、内陸ユーラシアのシルクロード交易路は突厥を征服した唐によって支配されるようになりました。唐はシルクロード沿いのオアシス国家などを支配下に組み込み、「羈縻政策」として世界史で知られているしくみをとってこの地域の支配を確立して…

R.F.クァン(古沢嘉通訳)「バベル オックスフォード翻訳家革命秘史(上・下)」東京創元社

外国語の文献を日本語に翻訳するとき、どうしても原語で言わんとしていることを日本語ではなかなかうまく表せないことはしばしばあるようで、翻訳家はその辺りで苦労をしているようです。また、単語の意味や文法的に正しい逐語訳でなく思い切った訳文を作っ…

ハナ・ロス (坂本麻里子訳)「自転車と女たちの世紀 革命は車輪に乗って」Pヴァイン

近所への買い物、ちょっとした遠出、通勤通学の足として欠かせない自転車、それが発明されたのは19世紀のことでした。様々な変化を経て今の形にちかいものができあがり、安価な交通手段として広く用いられるようになります。しかし、世の中の色々な物と同様…

3月の読書

3月になりました。このような本を読んでいます。 なお、2月に読んだ本で感想を書いていないものがあるのでそれを3月に書くと思います。そして、テオドラの感想は4月に回ります。 ディヴィッド・ポッター「テオドラ」白水社:読了 張愛玲(濱田麻矢訳)「半生…

レオポル・ミジョット(佐藤昇訳)「古代ギリシアのいとなみ 都市国家の経済と暮らし」刀水書房

最近のギリシア史において経済史の研究についても色々と本や論文が出ています。しかしながら、そもそも古代ギリシアの「経済」とは一体どんな物だったのか、そして現代の我々が考える「経済」と同一とみて良いのか、彼らがどのような活動に従事していたのか…

岩波敦子「変革する12世紀 テクスト/ことばから見た中世ヨーロッパ」知泉書館

ヨーロッパの12世紀というと、昨今では「12世紀ルネサンス」の時代としてよく登場します。ビザンツやイスラム圏からの古典の流入と翻訳を通じた需要、そして学問の発展といったことが扱われています。また、11世紀後半の西ヨーロッパで「発見」されたローマ…

増永菜生「カフェの世界史」SBクリエイティブ(SB新書)

町中を歩くとスターバックスやドトールなどの大手チェーンが建ち並び、一方で昭和のレトロな感じ満載な喫茶店も人気を集める、そしてブックカフェなど様々な形態がある、これが日本におけるカフェ、喫茶店の状況と言ったところでしょうか。コーヒーや紅茶な…

2月の読書

うっかりして2月が始まってしまったのに記事を書いていませんでした。2月はこんな感じでよんでいます。 ハナ・ロス「自転車と女たちの世紀」pヴァイン:読了 レオポル・ミジョット「古代ギリシアのいとなみ」刀水書房:読了 佐藤哲也「サラミス」tamanoir pu…

久保田和男「宋代開封の研究」汲古書院

北宋の都開封というと、「清明上河図」や「東京夢華録」に書かれた賑わう町という印象が強いです。よく唐の長安と比較され,政治都市の長安と経済都市の開封のような語られ方もしてきたことがあります(世界史の教科書なんかでもその辺りが強調されているか…

イアン・ウォーシントン(森谷公俊訳)「プトレマイオス一世 エジプト王になったマケドニア人」白水社

アレクサンドロス関係の史料として真っ先にタイトルが挙がるアッリアノスの東征記、その序文にはこの様なことが書かれています。 「わたしはピリッポスの子アレクサンドロスの事績を記録するにあたってまず、ラゴスの子プトレマイオスとアリストブロスの子ア…

白石典之「遊牧王朝興亡史」講談社(選書メチエ)

遊牧民の帝国というと、モンゴル帝国を思い浮かべる人は多いと想います。しかしモンゴル帝国の出現より前からモンゴル高原を中心に遊牧民国家の興亡が繰り返されてきた歴史があります。。本書はモンゴル帝国について考古学の成果を元に多くの本を書いている…

本村凌二「地中海世界の歴史5 勝利を愛する人々」講談社(選書メチエ)

本村先生一人による古代オリエントも含めたかたちで地中海世界の古代史を描く「地中海世界の歴史」もいよいよローマ史に入ります。ここまで4巻は著者の専門外のオリエント世界やギリシア、ヘレニズムでしたが、「心性史」に軸をおきちつ、長年研究してきたロ…

馬伯庸(齊藤正高訳)「西遊記事変」早川書房

中国四大奇書のひとつ「西遊記」、玄奘が仏典を求めて行ったインドへの求法の旅を題材とし、玄奘三蔵(三蔵法師)と孫悟空、猪八戒、沙悟浄の一行が道中で様々な困難に遭遇しながらもお供の者たちの協力をうけ天竺(インド)を目指すという物語です。道中で…

スーザン・マン(五味知子/梁雯訳)「張家の才女たち」東方書店

昨今、女性史研究は様々な時代や地域で活発に行われ、中国史も例外ではありません。儒教的価値観が強い中国で女性がどのような立場にあったのか。様々な女性がいるなか、本書では江南常州の張家の姉妹達とその母親、子ども世代、あわせて3世代、乾隆帝の治世…

ニコラ・ブーヴィエ(山田浩之訳)「世界の使い方」英治出版

昨年のベストにとりあげたデゼラブル「傷ついた世界の歩き方」は、著者がニコラ・ブーヴィエの旅行記を読んだことがきっかけでイランを旅しようと思ったことが始まりでした。では、ブーヴィエ自身の旅はどうだったのだろうと思い興味を持って読んでみました…

石見清裕「唐の北方問題と国際秩序」汲古書院

最近、隋や唐についての書籍では北方の遊牧民(突厥など)との関わりについて言及したものが多く見られたり、唐でソグド人やテュルク系の人々がかなり重要な存在を果たしていることがかなり語られているように思います。特に唐については東部ユーラシアの「…

1月の読書

新しい年を迎えました今月はこんな本を読んでいます。 昨年から読んでいて終わらなかったもの、昨年中に感想が書けなかったもの、そのあたりをなんとかしたい。 ヤマザキマリ、とり・みき「プリニウス(8巻から12巻)」新潮社:読了 久保田和男「宋代開封の…