まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

今月のお薦め

小林亮介「近代チベット政治外交史」名古屋大学出版会

チベットというと、かつてこの地を支配したダライ=ラマの政権は国外に亡命し、中華人民共和国の自治区であるが、仏教の活仏の選定にも中国政府の影響がおよぶなど、中国の領土の一部」としての支配強化が長年にわたり着々と進められている状況です。共産党…

馬伯庸(齊藤正高・泊功訳)「両京十五日 Ⅱ 天命」早川書房

北京から南京への遷都のため送られてきた皇太子が命を狙われ、さらに北京の皇帝も危ない状態になるなか、皇太子が北京を目指す「両京十五日」、1巻が非常に面白く次を楽しみにしていました。それが無事刊行され、早速読みました。この巻では、皇位をめぐる明…

渡辺信一郎「増補 天空の玉座 中国古代帝国の朝政と儀礼」法藏館(法蔵館文庫)

中国というと皇帝による専制国家、という理解は多くの人にも広まっているものだと思います。しかし、専制政治をいかにして成り立たせるのか、そのしくみについてまではあまり深く考えていない、単に皇帝が独裁的に好き勝手に決めているという程度の理解の人…

姜尚中(総監修)「アジア人物史9 激動の国家建設」集英社

アジア人物史も残すところわずか、今回の9巻は近代国家建設や民族運動に関連する項目が多くなっています。最初に「東学」を生み出した崔済愚と高宗をとりあげたあと、様々な地域を見ていくという感じです。 内容を見ると、パン=イスラム主義で有名なアフガ…

馬伯庸(齊藤正高・泊功訳)「両京十五日 Ⅰ 凶兆」早川書房

時は明朝、4代目皇帝の治世、皇太子朱瞻基(のちの宣徳帝)が南京へと派遣されてきました。皇帝の意図は永楽帝が北京に移した都をまた南京に戻そうというものであり、そのために朱瞻基が派遣されてきます。しかし南京に到着したとき、彼を乗せた宝船が爆破さ…

ジェイムズ・ポスケット(水谷淳訳)「科学文明の起源」東洋経済新報

科学の歴史というと、前近代には中国など非ヨーロッパ圏での成果が多く取り上げられますが、ある時期からヨーロッパ中心になっていきます。特に近代科学ともなると、「科学革命」あたりからはもっぱらヨーロッパ(そしてアメリカ)の話題が中心となっていき…

堀地明「清代北京の首都社会 食糧・火災・治安」九州大学出版会

清朝の首都北京、そこは皇帝や王族、官僚、八旗の構成員だけでなく多くの人が暮らす大都市です。そんな大都市でどのようにして人々に食糧を安定供給していたのか。また、洪水などの災害や都市では避けられない火災、そして犯罪の発生といった問題もあるわけ…

山舩晃太郎「沈没船博士、海の底で歴史の謎を追う」新潮社(新潮文庫)

日本史でも元寇の沈没船が発見されたことが過去ニュースにも取り上げられていましたが、海に沈む沈没船から様々なものが発見され、それによって歴史の一端が明らかになることがあります。地中海の古代ギリシアの沈没船から見つかったアンフォラが当時の経済…

シオドラ・ゴス(鈴木潤訳)「メアリ・ジキルと囚われのシャーロック・ホームズ」早川書房

ジキルとハイドの話やフランケンシュタインなど様々な物語に登場するマッドサイエンティストたち、その娘たちがクラブを結成し謎を解き明かす、「アテナ・クラブ」シリーズの完結編がでました。前作でシャーロック・ホームズが失踪、さらに終盤にはメアリの…

姜尚中(総監修)「アジア人物史6 ポスト・モンゴル時代の陸と海」集英社

アジア人物史6巻は、モンゴル帝国によるユーラシア統合が終わりを迎えた後、ユーラシア各地でみられた国家の形成、宗教の伝播、交易ネットワークの展開を扱います。かつてモンゴル帝国が存在した世界で海と陸のネットワークが結びつきました。そのつながりは…

荒川正晴ほか(編)「岩波講座世界歴史2 古代西アジアとギリシア」岩波書店

(読了は11月30日) 岩波講座世界歴史の新シリーズがで始めたのが2年前のこと、そこからコンスタントに刊行が進み、全24巻がこの度出揃いました。実のところ最初に出た第1巻が目次みた時点で興味が湧いて来ず(今も無い)、このシリーズはどうしたものかと迷…

岩﨑周一「マリア・テレジアとハプスブルク帝国」創元社

ハプスブルク君主国のマリア・テレジアというと世界史では18世紀中欧・東欧の歴史を語る際に欠かせない人物です。しかし、彼女の治世は単純化して示せる何かわかりやすい特徴があるかというとそういうものではないようです。改革を進める一方で保守的なとこ…

姜尚中(総監修)「アジア人物史5 モンゴル帝国のユーラシア統一」集英社

集英社のアジア人物史シリーズも残すところは少なくなってきました。第5巻では前近代ユーラシア史のハイライトといってもよい、モンゴル帝国の時代が描かれます。チンギス・カンによるモンゴル帝国樹立、そしてその後のモンゴル帝国の拡大過程、クビライの業…

川本直「ジュリアン・バトラーの真実の生涯」河出書房新社(河出文庫)

”かつて、1950年代から70年代のアメリカにジュリアン・バトラーと言う作家がいた。同性どうしの性行為や同性愛が処罰の対象となる時代において、男性同士の愛を描いた作品を発表した。女装を好み、過激な発言を繰り返し、カルト的な人気を得た。” しかし、こ…

西田祐子「唐帝国の統治体制と「羈縻」」山川出版社

様々な史料を読み解き、それをもとに歴史を書くというのが歴史の研究・記述において行われていることですが、その史料が果たしてどこまで同時代の認識を反映しているのかというのは常に気になるところです。同時代史料であっても、それがごく一部の変わり者…

平田陽一郎「隋 「流星王朝」の光芒」中央公論新社(中公新書)

中央公論新社で中国の各王朝ごとの巻が結構出ています。今年の春には「唐」がでて、東部ユーラシアの帝国としての唐の歴史をまとめており非常に面白く,此方にも感想を書いています。そして、今回は唐の前の隋で一冊の本が出ました。隋のような短命な王朝で1…

姜尚中(総監修)「アジア人物史3 ユーラシア東西ふたつの帝国」集英社

人物を通じてアジアの歴史を見る「アジア人物史」シリーズの第3巻が出ました。刊行ペースが少しゆっくりに成、2ヶ月に1冊くらいのペースになってきています(予定通りのようですが)。この巻では6世紀から11世紀頃というはばで、唐とイスラム帝国が栄えた時…

小野寺拓也・田野大輔「検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?」岩波書店

SNSの発達によりいろいろな人が言いたいことを言いやすい環境ができあがっていくなか、世間で言われていることとはちょっと違うことをいうと人目を引きやすいことは多いようです。とくに「〜の真実」「本当の〜」等と銘打って本を出すと、それを見てその通り…

三佐川亮宏「オットー大帝ー辺境の戦士から「神聖ローマ帝国」樹立者へ」中央公論新社(中公新書)

オットー大帝(オットー1世)というと、世界史では神聖ローマ帝国の初代皇帝と言うことでその名が出てくる人物です。レヒフェルトの戦いでマジャール人(なお、本書では自称であるマジャール人ではなく史料の記述に従いハンガリー人として表記しています)を…

千葉敏之(編著)「1348年 気候不順と生存危機」山川出版社(歴史の転換期)

山川出版社から刊行されてきた「歴史の転換期」シリーズもついに完結の時を迎えました。扱われるのは1348年、中世ヨーロッパで黒死病(ペスト)の大流行を迎えた時代であり、そのほかの地域でも疫病や気候不順、相次ぐ戦乱が見られた時期でした。いっぽう、…

小嶋茂稔「光武帝」山川出版社(世界史リブレット人)

世界史リブレット人の新刊は後漢の建国者、光武帝こと劉秀をあつかいます。日本史,中学歴史で奴国の使者がやってきたときに「漢委奴国王」印を授けた皇帝として光武帝(劉秀)は登場するので,どこかで名前は聞いた、習ったという人がほとんどのはずです。…

マギー・オファーレル(小竹由美子訳)「ルクレツィアの肖像」新潮社

物語の出だしは1561年、主人公であるルクレツィアが死んだ年、人里離れたところにある砦を舞台に夫と二人きりの食卓で彼女は夫に殺されることを予感しながら卓についているところから始まります。その後、過去の話と砦での様子が交互に入れ替わるように展開…

姜尚中(総監修)「アジア人物史4 文化の爛熟と武人の台頭」集英社

アジアの古代、中世の歴史を見ると、外戚が台頭する時代や武人の台頭が見られる時期が見られます。日本史では摂関政治や院政期の武士の台頭と平氏政権、鎌倉幕府の登場と言う具合で現れてきます。またこの時期は文化的に東部ユーラシアでは独自の文字を発展…

姜尚中(総監修)「アジア人物史11 世界戦争の惨禍を超えて」集英社

アジア人物史の11巻は20世紀、世界戦争に関わる時代に生きた人々を扱いつつ歴史を描こうとしていきます。内容構成を見ると20世紀前半、第2次世界大戦前の時代が中心となる人物と、第2次世界大戦後の世界での活動が中心となる人が色々と混ざっています。また…

キム・イファン、パク・エジン、パク・ハル、イ・ソヨン、チョン・ミョンソプ(吉良佳奈江訳)「蒸気駆動の男」早川書房

「スチームパンク」というと、内燃機関が存在せず蒸気機関により様々なものが動く世界を舞台に展開されるSFのジャンルということで理解していいのかと思います。イギリスのヴィクトリア朝なんかがよく出てくるところでしょうか。しかし本書では蒸気機関に…

バート・S・ホール(市場泰男訳)「火器の誕生とヨーロッパの戦争」平凡社(平凡社ライブラリー)

ヨーロッパの歴史を見ていくと、中世末期に火器が使われるようになり騎士の没落が進んだといった記述が教科書などでみられましたし、今でもそのようなイメージが強いと思われます。火器の使用は14世紀初めには実現していますが、いきなりそれによって火器が…

諫早直人・向井佑介(編)「馬・車馬・騎馬の考古学 東方ユーラシアの馬文化」臨川書店

前近代世界のユーラシアの歴史を考えるとき、馬及び騎馬遊牧民の存在が重要であると言うことはつとに指摘されてきています。騎馬遊牧民の国家が広大な領域を支配し、交易を活発化させたり、農耕民の世界との間で様々な交渉がみられたことも世界史でよく触れ…

姜尚中(総監修)「アジア人物史10 民族解放の夢」集英社

アジア人物史10巻は19世紀から20世紀、帝国主義の時代にアジアの人々がいかに対応していったのかを,非常に広い範囲の人物を取り上げながら描いていきます。扱われる人物の幅の広さは他の巻と同様に非常に広く、政治に関係した人物だけでなく、思想・文化に…

ディオドロス(森谷公俊訳註)「アレクサンドロス大王の歴史」河出書房新社

20世紀末から21世紀の日本でアレクサンドロス研究を担ってきた森谷先生は最近大王に関する史料の邦訳をまとめて単行本に出したり、東征路の実地検分を元にイランでの遠征路などを復元しようとするなど、様々な活動を展開しています。そうした活動の一つとし…

杉本陽奈子「古代ギリシアと商業ネットワーク」京都大学学術出版会

古代ギリシアのポリス世界というと、武装自弁で軍役を果たす市民が政治に参加する世界として知られています。そんな市民の多くは土地を持ち、農業を行う、あるいは商工業を営むと言った形で生計を立てている者が多く見られます。しかし、商業活動に関わる、…