まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

柿沼陽平「古代中国の24時間」中央公論新社(中公新書)

歴史の本というと、政治や軍事に関する出来事の歴史であったり、グローバルヒストリーのような大まかな構造をつかむようなものであったり、そのような本がある一方で、日々の生活の様子を綴ったようなかなり細かい事柄を扱った本もあります。しかしそういう本の多くは西洋史関係の方で多く、東洋史の本でそのようなものはあまりみた記憶がなかったりします。

そのような状況下で、本書は古代中国、漢の時代を中心として古代中国の人が朝目覚めてから夜眠るまでという時間の中で何をどのように行なっているのか、あるときは史料の関連する記述を丹念に追い、またあるときは考古学関係の成果も用い、日常生活がどのように営まれているのかを描き出していきます。

設定として、未来から漢の時代にタイムスリップしてきたが皇帝の寛大なる措置により色々とみて回ることが可能となった人物(著者のようです)がいろいろみたり効いたりしたものを伝えるという感じのようです。そして目覚めてから身支度をし、仕事を行い、夜は宴会、そして夜寝るまでの時間の中で何が行われているのかを伝えていくという一冊です。

歯磨きの習慣がないため虫歯が多かったということや、秦始皇帝兵馬俑も個人の顔を忠実に写したものではなく工房で大量生産したパーツの組み合わせであるといったことなど、いろいろと興味深い話題がみられます。建物の建築様式や町の構造、人々の服装や装飾品、食事や飲み物、娯楽や仕事、夫婦生活や家族の関係、性愛などなど古代中国の日常生活の様子を描き出す著者の筆致もなかなか面白いものがあります。そして、本当にそんなことがあるのかと思う話について、注で出典が明記されているところもまた驚かされます。

日常生活に関わることというと、多くの場合無視されてしまいそうな事柄が結構多いのですが、それを描くためによくここまで色々な話題を収集できたと思います。史料の関連すると思われる箇所に付箋を貼っていったという著者の努力のたまものでしょう。古代中国に関心のある人だけでなく、他の地域や時代の歴史に興味がある人が読んでも面白いと思える一冊です。そして、古代中国について何か創作しようと思う人はぜひ目を通すべきでしょう