まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

上半期ベスト

6月もまだそれなりに残っていますが、仕事で色々と忙しく落ち着いて本を読めるか微妙な状況です。なので、もう上半期ベストを選んでみることにしました。

林美希「唐代前期北衙禁軍研究」汲古書院
平田陽一郎「隋唐帝国形成期における軍事と外交」汲古書院
小島庸平「サラ金の歴史」中央公論新社中公新書
佐藤信弥「戦争の中国古代史」講談社講談社現代新書
アレクサンドラ・ダヴィッド=ネール/アプル・ユンテン「ケサル王物語」岩波書店岩波文庫
森山光太郎「隷王戦記1 フルースィーヤの血盟」早川書房(ハヤカワ文庫)
ビアンカ・ピッツォルノ(中山エツコ訳)「ミシンの見る夢」河出書房新社
黒田基樹「今川のおんな家長 寿桂尼平凡社
佐良土茂樹「コーチングの哲学 スポーツと美徳」青土社
岸本廣大「古代ギリシアの連邦 ポリスを超えた共同体」京都大学学術出版会
マデリン・ミラー(野沢佳織訳)「キルケ」作品社
プルタルコス(城江良和訳)「英雄伝6」京都大学学術出版会(西洋古典叢書

上半期のベストはこの12冊ということになります。今年の初めの頃は、唐の軍制について一寸色々と調べる必要があり、専門書を買って読んでみました。いわゆる府兵制=兵農一致の兵制、という理解は修正が必要なんだなと言うことがよく分かりました。一寸ここでお金使いすぎた感じもするのですが、まあそれはいいかと。

また、女性の生き方、女性の視点から見た事柄、その辺りについての本もそこそこあるかなと思います。「ミシンの見る夢」「キルケ」はどちらも面白い小説ですし、寿桂尼本はあとがきの黒田先生がある女優さんとの話からヒントを得たり、講義を受けている女子学生の感想から感じたことなど、女性史を研究したり学んだりする意義を感じる事柄が触れられています。このご時世だからこそ読んで欲しいなあと。

また、ジェンダーというと「サラ金の歴史」もそれに関する話が色々と登場します。やはり社会の中で男、女、それぞれの役割として考えられているもの、価値観を一端見直すというのは必要なんだろうなあと。その上で何をどうするか考えていければ良いのでしょう。サラ金の発展と衰退の歴史もとても面白いですし、題材的に一方的に断罪するような内容になってもおかしくないのですが、かなり抑制的なタッチでまとめていました。

一寸変わったところでは、「コーチングの哲学」というアリストテレス倫理学の考え方と、バスケットの名コーチの指導のスタイルから、良いコーチ・良いコーチングとは何かを考えていくと言う本でした。自己犠牲に酔うのは決して良いことではないなと痛感させられます。

また、「ケサル王物語」はチベットの英雄叙事詩という珍しいモノが訳されたので読んでみました。この本が出来る経緯自体が非常に興味深いものがあります。話の方は、一寸それは都合良すぎないかと突っ込みたくなったり、神の転生のはずがずいぶんと人間くさいことをするなあと言いたくなる人がいたり、実におもしろいです。

「戦争の中国古代史」は武帝の対匈奴戦争のあたりも書いてくれると良かったのになあと言うのは贅沢すぎる注文だと思いますが、これもまた読み安く刺激的な内容になっています。

古代ギリシアものからh「古代ギリシアの連邦」「プルタルコス英雄伝6」を挙げておきます。連邦国家について研究史、そこからギリシアの歴史を一寸違う視点から見て構築していこうという「古代ギリシアの連邦」をよむと、この視点でギリシアの一般向け通史を書いてみて欲しいなあと期待したくなります。そして、ようやくプルタルコス「英雄伝」が完結し、読みやすい文章で古代の英雄達の話を読めるようになりました。値段は高いと思うかもしれませんが、何度も読み込む価値がありますよ。

そして、今後が楽しみなシリーズとして「隷王戦記」シリーズが刊行され始めました。異世界戦記物というと、アルスラーン戦記とか銀河英雄伝説とかがありますが、これもまたなかなか面白いです。位置づけ的にはスターウォーズの第1作(エピソード4)、マトリックス第1作みたいな感じですが、主人公の歩みははたしてルークなのか、はたまたネオなのか、興味は尽きません。著者は世界史が結構好きなようで、これはあの人がモデルだろうなあと思いながら読むのもまた面白いでしょう。

以上、2021年上半期のベスト本紹介となりました。下半期は忙しそうですがおもしろい本が読めるといいなあと。