まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

ポール・カートリッジ(橋場弦監修・新井雅代訳)「古代ギリシア 11の都市が語る歴史」白水社

古代ギリシア史に関する入門書や概説書は世の中に結構あります。オーソドックスなものですと時代の流れに沿って出来事を並べ、その中で色々なテーマを取り扱うという形で書いていく感じになると思います(各社の「世界の歴史」シリーズはそのような感じですね)。

しかし、本書は一応古代ギリシアの通史を押さえられるようなスタイルになっていますが、時系列に沿って出来事を並べる、テーマをいくつか並べる、そのよう な形はとっていません。どのような形を取るかというと、古代ギリシアの歴史において、ここは重要だろうと著者が判断した11の都市を取り上げ、都市の歴史 を語りつつ、それを一冊にまとめると、古代ギリシアの通史になっているという、都市の歴史によって古代ギリシア史を語ると言う形を取っています。

取り上げられた都市は、クノッソスやミケーネといったものからはじまり、最後はビュザンティウム(コンスタンティノポリス)でおわるという流れで、アテネ やスパルタ、テバイといったギリシア世界で覇権を握ったことのある都市から、名前は良く出てくるアルゴス、さらにマッシリア(現在のマルセイユ)、ミレト ス、シラクサといったギリシアから遠く離れた都市、そしてヘレニズム時代の代表としてアレクサンドリアが取り上げられています。

これらそれぞれの都市の歴史について書きつつ、一応その後についても取り上げられているところもあり(ミケーネの末路は何とも哀れです…)、都市の歴史を おさえつつ、古代ギリシアの通史がだいたいまとめられている、そのような本になっています。ちょうど、多色刷りの版画ができあがっていくような感じで、古 代ギリシアの通史を書き上げたような一冊です。

また、本書は良くある歴史書のような、無味乾燥な(といっては良くないのですが)、「事実」をひたすら羅列した本ではありません。たとえばアレクサンドリ ア(アレクサンドレイア)の項目では、ギリシャの詩人カヴァフィスの詩を引用しながら、ヘレニズム時代についての話を展開していくところなどは、著者の多 方面への興味関心、素養のような物を感じます。色々な話題を取り込みつつ、読みやすく古代ギリシアの通史をまとめた入門書といった感じです。

今年の夏(2011年7月、8月)は、古代ギリシア史の入門書がこれを含め2冊出ました。オズボン「ギリシアの古代」は入門書とはいっても、ある程度通史 を押さえておいた方が読みやすい(むしろ何も知らないと、何だかよく分からないところもありそう)本でしたが、それを読む前に、まずこちらを読んでから次 にオズボンを読むと、色々と面白く読めそうな気がします。

最後に、本書で気になった話題を一つ。プトレマイオスが奪取してアレクサンドリアに安置したアレクサンドロス大王の遺骸が、実は今はヴェネツィアのサンマ ルコ大聖堂の地下に納められている(要は、聖マルコの遺骸とおもってヴェネツィアにもってきたものがアレクサンドロス大王の遺骸だった、ということ)、と いう仮説が最近出されていたそうです。何か、他にもそういう話はいくらでも作れそうな気がしますが、真相は如何に…。