まずはこの辺は読んでみよう

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荒川正晴ほか(編)「岩波講座世界歴史2 古代西アジアとギリシア」岩波書店

(読了は11月30日)

岩波講座世界歴史の新シリーズがで始めたのが2年前のこと、そこからコンスタントに刊行が進み、全24巻がこの度出揃いました。実のところ最初に出た第1巻が目次みた時点で興味が湧いて来ず(今も無い)、このシリーズはどうしたものかと迷いました。結局スペースもないので図書館で読めればいいと思って放置していましたが、シリーズの最後は古代ギリシアが扱われているということで買うことにしました。

構成としては西アジアギリシアの展望がざっくりとまとめられ、その後もトピックが色々と扱われています(問題群と焦点の違いがあまり実はよくわかっておりません、すみません)。オリエント文明の農耕社会と遊牧の関係や新石器時代の社会システムを扱ったところなどはなかなか興味深く、新王国時代のエジプトについても自分が知っている頃とは随分と違う見方がなされているのだなと面白く読めました。また、高校教科書に書かれる古代イスラエルの歴史を検討し、その問題点をみていくところは色々と難しさを感じるところがあります。

ギリシア史関係では、ポリスに関する事柄にウェイトが置かれている内容が多くなっています。ミケーネの王国からポリス世界への転換があつかわれていたり、古代ギリシアのポリスについて最近研究テーマとなっていることを取り上げつつポリスとは何かをまとめていたりします。そしてヘレニズム時代についてもポリス世界に重点を置いて言及されています。ポリス内部のことについてはアテネ社会をジェンダーの視点でみたものが掲載されています。西アジアとの関わりとしてはペルシア帝国がギリシア人を帝国内で多く用い、ペルシア帝国は辺境の民ギリシア人を互酬的な関係に組み込み、ギリシア人にも配慮しているという認識を持っていたということが扱われています。そのほか、短めのコラムがいくつかあり、バビロン天文日誌と占星術やシュメール語とアッカド語古代エジプトの女王といった事柄のほかヘロドトスの探究の姿勢に着目するという興味深いコラムもありました。

全体を通して、扱われるトピックは興味深いものがありますが、なんとなく分量が少なく、おしゃれな雰囲気で美味しいんだけども微妙に満足感が得られない、都心のこぎれいなカフェで出てくる料理のような一冊だと思いながら読み終えました。そうなのか、これどうなんだろうと思っても、結局そこで話が終わり、次へ進んでしまうのでなんとなく物足りないなと思うところもありました。このページ数、分量で語るのは難しいということでしょうか。

個人的には、西アジア、エジプト、ギリシアの相互の影響関係にふれながら見ていくというスタンスなのであれば、ヘレニズム世界・ヘレニズム時代史についてもっと深く扱って欲しかったと思います。展望ではほんのわずか、そのほかでもポリス世界との関わりに関してヘレニズム時代が触れられる程度です。最近の研究成果を踏まえたヘレニズム時代についての邦語文献が少ない現状を考えると、もう少し取り扱っても良かったのではないかとおもいます。そこのところは誰かが別のところで書いてくれることを期待しましょう。