まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

姜尚中(総監修)「アジア人物史6 ポスト・モンゴル時代の陸と海」集英社

アジア人物史6巻は、モンゴル帝国によるユーラシア統合が終わりを迎えた後、ユーラシア各地でみられた国家の形成、宗教の伝播、交易ネットワークの展開を扱います。かつてモンゴル帝国が存在した世界で海と陸のネットワークが結びつきました。そのつながりはモンゴル帝国が解体した後もいろいろな形で現れてきますが、それがどのような形で現れたのかを描き出していきます。

また、国家形成と言うことではモンゴル帝国を継承せんとしたティムールの帝国とその後裔であるバーブルのムガル帝国樹立だけでなく、その周辺や支配された地域の動向も扱います。東方では中国に現れた明がどのようなかたちでモンゴル勢力と関わりを持ち、ネットワークとの関わりをどのような形でとっていったのかを扱います。モンゴルとの関わりを描くに際し、藍玉を章の主要人物として取り上げ、土木の変あたりまでを扱い、明とモンゴルの「第3次南北朝時代」という視点を取り入れているのがなかなか新鮮です。西方ではメフメト2世のもとでオスマン帝国が征服地を拡大しつつ「帝国」としての形を作り上げていく様子があつかわれています。

そのほか、中国とのネットワークの関わりの中で発展した琉球室町幕府の日本、そして李朝朝鮮が扱われていきます。これらの国々も明との間でどのような関係を構築いていたのかということに留意しながら書かれていますが、明の使節に対しても上から接する足利義満の姿はなかなか面白いものがあります。そして、李成桂が朝鮮の正式な王として認められず、3代目の王の時に認められたというのは知りませんでした。

明を中心とした東アジアの秩序構築ということでは、鄭和の南海遠征は当然のことながら、永楽帝のモンゴル遠征や彼の時代に東北部で活動した宦官イシハといった人物が取り上げられています。そして明中心の秩序への挑戦、貿易の拡大の要求を進めた勢力として王直とアルタンがとりあげられています。

そして、東南アジアについては宗教や思想の伝播という観点からその地域の歴史が語られていきます。イスラム教の広がりがみられた島嶼部、上座部仏教がひろまったミャンマー、タイ、そして儒教が受け入れられていったベトナム、それぞれの歴史の展開をこういう観点からまとめるというのが面白いと思いながら読みました(ただし、人物名についてはなかなか追いつくのが難しかったです)。

思想や文化に関する記述は他の間と比べるとやや少なく感じるところはあります。しかしながら王陽明陽明学をとりあげながら、大川周明まで話を展開するスケールの大きさはなかなか面白い内容となっていました。いっぽうで女性に関する記述はあまり目立たないところは致し方ないのでしょうか(バーブルの姉とか、バーブルに関するところでちょこちょこと見かけましたが)。

モンゴル帝国解体後の世界がどのような展開を辿ったのか、多くの人物を登場させながら各地に「伝統」とみなされる文化を作り出していった様子とあわせて描き出されています。扱う人物のセレクトもふくめ、切り口もなかなか面白い本だと思います。