まずはこの辺は読んでみよう

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姜尚中(総監修)「アジア人物史10 民族解放の夢」集英社

アジア人物史10巻は19世紀から20世紀、帝国主義の時代にアジアの人々がいかに対応していったのかを,非常に広い範囲の人物を取り上げながら描いていきます。扱われる人物の幅の広さは他の巻と同様に非常に広く、政治に関係した人物だけでなく、思想・文化に関することもふれられています。非常に内容豊富であり全てを扱うのは難しいので、いくつか興味を引いたところを取り上げつつ感想を書こうと思います。

最初のところで朝鮮半島の民族運動について3章分ほどあてています。朝鮮の民族運動というと三・一独立運動の高揚がまずとりあげられますが、民族運動に対してどのような態度を取るのか,色々と難しいものがあったことを感じさせられる話が尹致昊の伝では展開されています。尹致昊の日記が最近東洋文庫で邦訳の刊行がスタートしていますが、日本とどのように関わるのか、世界史教科書に見られるような抗日一色ではない複雑な色合いを感じる人物たちが人物伝で扱われています。植民地支配にどう向き合うのか,色々な形があることが分かる内容です。

また、あまり多く扱われることがない清末以後のモンゴルや19世紀アフガニスタン、さらに琉球について扱った章もみられます。モンゴル史やアフガニスタン史、琉球史,イスラム世界における女性運動家の活動などそれぞれの歴史を扱った本では読むことが出来る内容だとは思いますが、これらの歴史についても人物を中心に据えつつ描かれています。このあたりについて一冊の本の中でコンパクトにまとまっている記述が読めるのはありがたいです。

思想や文化関係の人物、様々な分野において活躍した女性も多く取り上げられていることは本シリーズの特徴ですが、中国文学について魯迅だけでなく張愛玲をセットで取り上げていたり(魯迅とともに文学革命で出てくる胡適は別の巻でとりあげられています)、夏目漱石のほかに柳田国男与謝野晶子もあつかっています。世界史用語の人物などをみていると男性がおおく、政治に関係する人が中心になっているところもあります。より世界の歴史を広く色々な視点から描くという試みは評価されてしかるべきでしょう。

また、この時代の民族運動の活動家などをみていると、日本にもやってきたアブデュルレシト・イブラヒムなど非常に広い範囲で活動している様子が窺えます。こうした人々を軸に据えて近代の歴史を描き出すと、世界のつながりやある場所で始まったことに対して別の場所でどう対応しているのかなどがわかり、一国史的な歴史記述とはひと味違うものがかけるところはあるかとおもいます。

夏目漱石与謝野晶子など日本も含めアジアの様々な人物を扱いながら、近代西洋由来の事物(女性解放や民族自決など)にアジアの人々がどう向き合っていくのか、帝国主義の時代にどう対応していたのかを扱っています。扱われる人物になじみがなく、それ故に手に取らないという人もいるかもしれませんが、ちょっとそれはもったいないかなと思います。なじみのないパートが読みにくいということは正直なところありますが、何かを知ろうと思ってさらに読み進むとまた違う世界が開けるのではないでしょうか。