まずはこの辺は読んでみよう

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姜尚中(総監修)「アジア人物史4 文化の爛熟と武人の台頭」集英社

アジアの古代、中世の歴史を見ると、外戚が台頭する時代や武人の台頭が見られる時期が見られます。日本史では摂関政治院政期の武士の台頭と平氏政権、鎌倉幕府の登場と言う具合で現れてきます。またこの時期は文化的に東部ユーラシアでは独自の文字を発展させる国もあります。本書では南アジア(チョーラ朝、チャールキヤ朝)、東南アジア(アンコール朝、パガン朝、島嶼部のクディリ王国)、西アジア(ヌールッディーン、サラディン、バイバルスを中心に)の人物も取り上げていますが、東アジア関係の事例が多くなっています。

本巻は藤原道長からスタートしますが、道長と彼を取り巻く人々が取り上げられており、来年度大河ドラマの軽い予習にちょうど良さそうです。その後は院政、そして「愚管抄」の著者慈円まで扱われています。日本の鎌倉幕府についてはそれほど取り上げていませんが、高麗武臣政権について一章をあてています。武臣政権の中身まで知らない人が多いと思いますが、日本と高麗で違う道を進んだところに,両者の社会的背景や政治のあり方の違いが見られる内容となっています。このような内容が一般書でまとめられているのはありがたいことです。

日本の摂関政治から始まるこの巻では高麗で外戚として権勢を振るった仁州李氏も登場します。高麗と日本で外戚勢力が権勢を振るった時期が見られますが、両者の間には色々と違う点がある(藤原氏が父系氏族集団としてまとまっているが高麗の方ではそこまでのまとまりでない、そもそも天皇の生前上位が結構ある日本と王の終身制があたりまえの高麗では条件が違う等)ということを指摘しています。比較史的な視点をとるとまた色々と見えてきます。

宋については司馬光朱熹徽宗といった宋の学術・芸術・思想を扱えば必ず登場するメンバーに加えて多くの人に愛好される詞を残した女性詩人の李清照をとりあげています。北宋南宋の転換期という波乱に富んだ時代を生きた女性の生涯に感銘を受ける人も多いのではないでしょうか。そして、彼女の評価について、朱熹が大成した朱子学の影響で後世の評価が下がる(その一方で別の女性詩人が死後評価されるのも朱子学的価値観による)というところに前近代の女性に対する制約も見えてきます。過去の出来事ではありますが、過去を振り返りつつある事柄について今の我々が果たしてどうなのか、何をどうすべきか考えることは必要だろうと思うのですが、どうでしょうか。

個人的に本シリーズでは女性について多く取り上げています。宋についてはこの前までたまたまテレビドラマ「大宋宮詞」を見ていた関係で劉太后をもっと取り上げても良かったのではないかと思うのですが,それは欲張りすぎでしょうか。