まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

姜尚中(総監修)「アジア人物史11 世界戦争の惨禍を超えて」集英社

アジア人物史の11巻は20世紀、世界戦争に関わる時代に生きた人々を扱いつつ歴史を描こうとしていきます。内容構成を見ると20世紀前半、第2次世界大戦前の時代が中心となる人物と、第2次世界大戦後の世界での活動が中心となる人が色々と混ざっています。また、特定の個人にかぎらず、一つの組織(京城帝大、台北帝大に関係する人々)として扱われているところもあれば、昭和天皇とその時代という具合で非常に多くの人物が登場する章もあります。

本書は女性や思想・文化系の人を結構多く扱ってくれているのですが、帝国日本に抗した女性達と言う内容の章(最近ミッドウェー関係の本が文庫になった澤地久枝さんもでてきます(感想執筆時点で数少ない存命中の人です))や、李香蘭が扱われた章があるあたりはちゃんと考えているなと思います。

思想や文化、学術系を扱うと言うことで言うと、かつてあった旧帝大の2つがどういう意図で設置されたのか、そこに所属した研究者がどのような役割を果たしたのかと言うことにも触れられています。台北は南洋支配との関わり、京城は朝鮮支配、そして「文化政治」の時代に向かうなかで民族運動や外国の関与の機先を制するという意図、そのような背景で生まれた帝国大学ですが、そこで活動した人のなかに(特に台北のほう)その後の現地情勢にも関わる人がいるというのは興味深いものがあります。

その他、中国の自由主義者ということで胡適にくわえて陳寅恪がとりあげられていました。最近唐に関する著作を色々と読んでおり此方でも感想を書いていますが、陳寅恪というと唐について「関朧集団」について論証を進めた歴史学者ということで名前を見かけることが多い人物です。本書ではそのあたりについて詳述しているわけではありませんし、伝記的な内容でもないのですが、彼の学問と中国における自由主義の関係を詳述する内容となっています。

そのほか、ガンディーについても彼の自伝をきりくちに、彼の考え方の変化や運動の展開をおうという形でかいていたり(夏目漱石が色々と悩んだ問題についてロンドン滞在時は全く悩んだ形跡がないようです。また、かれはチャルカーは全く無縁な階層の人です)、韓国の財閥の興隆に関する記述等も興味深いところです。

西アジアについてはどうしても薄い感じがするのですが、モサデグとパフレヴィー2世についての伝記が読めるのはありがたいところです。どちらも世界史ではほんのちょっと名前と業績が出るだけですが、彼らの背景を知ることができ助かりました。

非常にページ数も多く扱われる人物の数も多い巻ですが、いろいろな切り口で人物について迫っています。