まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

姜尚中(総監修)「アジア人物史 第8巻 アジアのかたちの完成」集英社

(1月に読んだ本ですが、感想を書くのが遅くなりました)

シリーズものとして、人物を通じて通史を描いていこうとするアジア人物史の8巻は17世紀から19世紀、アジア各地域がヨーロッパ近代世界と相対するようになる巻です。繁栄の時代を迎えていたアジア諸地域がおもに19世紀に西洋の衝撃をうけ、それにどう対応するのか、各地での動きが取り上げられています。

西洋近代の文物に接し、技術を取り込み、近代と向き合う中で清朝オスマン帝国、インド社会やベトナム中央アジアなどでどのような動きが見られたのかということに触れた内容がみられます。

思想や学術関係の内容がかなり豊富というのもこのシリーズのここまでの特徴と言って良いかと思います。歴史は政治的な事柄だけでないということで、経済や社会についての話というのはよく出てきますが、思想や学術にかなり重点を置いているというのは貴重だと思います。中国だけでなく日本や朝鮮の学術についても取り上げており、このあたりに興味がある人はまず読んでみるといいかと思います。登場人物が多く、少し骨が折れる部分ではありましたが。

個人的興味では、乾隆帝について1章が割かれていたところが面白いと思いました。清朝最盛期とされる康煕帝雍正帝乾隆帝について、古くなったとはいえ雍正帝宮崎市定の本があり、康煕帝についても世界史リブレット人で刊行が予定されてたり「康煕帝の手紙」の改題ヴァージョンもあるなど、それなりに読もうと思えば読めるものがある一方、乾隆帝については少々変化球気味な本しかない状況が続いていました。短いとはいえ乾隆帝の時代について読めるものが出たというのはありがたいことです。

また、歴史上の人物の構成への評価はその状況により様々であると言うことを感じさせるのはベトナムの章でしょうか。西山党、阮朝に関する章を見ていると、それが非常に強く感じられます。また、アジアと言うことで日本、そして琉球についても視野に収めた構成となっており、興味深く読めました。

17世紀から19世紀ということで、16世紀から18世紀を扱った7巻と重なる時期のことがあつかわれています。そのため、章の主人公でないことに関しては重複も実はあります(ジュンガル関係が7巻と8巻に登場しています)。同じ事を複数の箇所で異なる視点で繰り返し見ていくというのもなかなか面白いものだと思います。