まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

イアン・マキューアン(村松潔訳)「ソーラー」新潮社

ノーベル賞受賞科学者ビアード、彼はちび・でぶ・はげの三拍子がそろった女好きな物理学者です。妻がいながら愛人を作り(相手の女性はどうも絶世の美女タ イプではなく、一寸個性的な方が多いような気がする)、科学的・合理的思考を最善の物と信じ(本書の中盤でポストモダンとか文系の学問や考え方を小馬鹿に しています)、妙なアクシデントに良く出くわす(北欧で寒中立ち小便によって大変なことになってみたり、ポテトチップをめぐって乗り合わせた客と一悶着起 こしたりしています)、そのような人物です。

あるとき、彼は人間関係のトラブルがきっかけで発生した、ちょっとしたアクシデントがきっかけで知った太陽光エネルギーでひと儲けを企みます。彼自身は当 初太陽光エネルギーなど全く信じていなかったようなのですが、いつのまにか太陽光エネルギーの有用性を世界各地を回って訴えかけるようになります。そして スポンサーも集まり、いよいよアメリカで太陽光エネルギーの実験を行おうとするのですが…。

たまたま発生した不幸な出来事を利用して、ビアードが太陽光エネルギーに注目するようになり、世界各地を飛び回って講演会をこなし、投資家達に金を出さ せ、一儲けしようとするのですが、その間にはビアードにとっては思いもしなかった事が次から次へと起こっていきます。予想外に父親になってしまったり、女 性研究者にたいする問題発言から、マスコミにさんざんいじくり回されることになったり、二股交際で厄介なことになったりと、ビアード自身の不注意・軽率さ が引き起こしたとしかおもえない事ばかりです。そして、これまでに起きた色々な出来事が最後に積み重なって、結末へと向かっていきますが、このカタストロ フィーの後、果たしてビアードはどうなるのでしょうか。最後に彼の胸の中にわき上がる物が、ビアード自身がそうだと思っている物なのか・・・。

エコのための集まりでエゴがむき出しになっている北欧珍道中とか、ビアードに対するメディアの扱い、思い込みの怖さを感じさせるポテトチップを巡る出来 事、風刺的な内容を含みつつ笑える題材が色々と盛りこまれています。ビアードに対して、実際にこんな人がいたら嫌だけれども、彼のような振る舞いをする 人っているよな、そしてそれを周りで見て楽しんでいる人もいるよなあと、読んでいてふと考える人は多そうですが、どうでしょう。