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森山光太郎「隷王戦記2 カイクバードの裁定」早川書房(ハヤカワ文庫)

早川書房からこの春だされた「隷王戦記」、全3巻構成(予定)の第1巻では主人公カイエン・フルースィーヤが一敗地にまみれ、すべてを失ったところから再起し、バアルベクの新太守マイや仲間達と新たな目標に向けて歩み出すところで終わりました。それから1年半が過ぎたところが舞台となっています。カイエン、マイの先代以来の宿敵シャルージに加勢する7都市の連合軍を相手にどのように戦うのか。

それに加え、セントロ最強の呼び声も高いカイクバード侯がいます。圧倒的な武勇と武力で他をねじ伏せ、「軍神」とも形容されるカイクバード侯ですが、更に厄介なことに彼の息子と娘が「背教者」の能力を持つという、存在自体が反則としかいえない勢力です。彼もまたエルジャムカにどう相対すべきか考え、そして急速に勢力を拡大するバアルベクの支柱であり「背教者」の能力を持つカイエンに対し色々と考えるところがあるようです。カイクバード侯の英雄に関する問いかけにカイエンはどう答えるのか。

さらに、エルジャムカがオクシデント制圧にも乗り出し、アルディエル・オルグゥ率いる軍勢が送り込まれます。彼の元には2人の能力者(そのうち1人はカイエンの想い人フラン・シャール)という圧倒的な力があり、それを背景にオクシデントを制圧していきます。そうなるとカイエンたちは東西両面に敵を抱えることなりますが、果たして乗り切ることができるのか。

さまざまな情勢が動くなか、強大な力を継承したカイエンが太守マイや仲間とともに、東方(オリエント)を統一した覇者エルジャムカに対抗するために中央(セントロ)統一という目標に向けて動き、戦いを繰り広げるのがこの第2巻です。セントロ統一を目指すということで、バアルベクと同じような太守がいる諸国や上位の4諸侯(スルタン)との競合は避けられません。このような様々な勢力の思惑が交錯するセントロ統一に向けた戦いが、大規模な会戦から包囲戦まで色々な形で展開されているのがこの巻です。

基本的に数的不利ななか奮戦するカイエン率いるバアルベクの軍勢ですが、カイエンの右腕たらんと奮闘するバイリークは困難な包囲戦を戦い抜き、バイリークと共にカイエンに仕えるサンジャルとラージン麾下からカイエン麾下になったシェハーブは猛将として敵を蹴散らす、カイエンたちが別の場所で戦っている頃、大軍に攻められるバアルベクではマイを中心に敵の大軍の包囲に立ち向かう、その活躍ぶりが随所に描かれています。さらにこの巻でカイエンたちと馬を並べ戦う新たな仲間も登場しますが、彼等の力量を伺わせる活躍もしっかり描かれています。

そして、この巻では「背教者」「守護者」について色々と明らかになっていきます。人類、動物、鋼、火、水、大地、樹の7能力者がキャラクターとしては全て登場(能力について不明なものもいますし、守護者同士のバトルも発生します)、憤怒、怠惰、悲哀の背教者3人も全て姿を見せています。また背教者のほうは能力の継承が可能であることは1巻でも明らかですが、守護者については誰がどのように能力を持つのかはなかなかわからない(人の意思で継承できるものではない)というところが示されています。そして最強の「人類」の守護者の力に対抗するには背教者の力を合わせることが必要なようですが、どのようにしてそれを可能とするのか気になるところです(力の継承と同じようなやり方だと悲劇が発生してしまいますが、いかにそれを回避するのか)。

物語は終盤、序盤にカイクバード侯から英雄に関して問われたカイエンが出した答えに対してカイクバード侯が下した裁定、そして風雲急を告げる西方情勢がかかれ、大きく物語が展開しそうなところで終わっています。「(普通の人、守護者、背教者をとわず)人を救う」というカイエンの言葉は叶うのか。クライマックスの第3巻に向け、舞台は整ってきたというところでしょうか。分量は決して多くない(400ページくらい)ということですが、かなり絞り込んだ物語は読み応えも充分にあるのではないかと思います。

合間で、カイエンとマイのやりとりが挟み込まれていますが、若いながら途轍もない重圧に耐える2人が互いに支え合っているようで、戦闘メインの本巻においてはちょっと感じが変わるパートになっています。しかし、そんな2人の今後について途中で予告されてしまっているのですが、そのルートは回避できないのでしょうか。