まずはこの辺は読んでみよう

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プルタルコス(柳沼重剛訳)「英雄伝1・2・3」京都大学学術出版会(西洋古典叢書)

京都大学学術出版会から出ているプルタルコス「英雄伝」については、エウメネス伝が掲載されている4巻および、アレクサンドロス大王伝が掲載されている5巻は手元に持っていました。しかし、よく考えたところそれ以前の巻は図書館で借りて読んだことはありましたが、やはり手元においておくべきだろうとおもったこと、昨今の外出自粛などを過ごすためにこういう本を揃えておくのは有益だろうと思ったこともあり、出費は馬鹿になりませんが思い切ってまとめて購入して読むことにしました。

第1巻ではテセウスロムルス、リュクルゴスとヌマという伝説上の人物と言ってもいいような人々の伝記が掲載され、そのあとはソロンやテミストクレス、カミルスといった人物が掲載されています。執筆順はこういう人から書いたわけではないようなのですが(そのあたりは、「『英雄伝』の挑戦」所収の小池論文が詳しかったはず)、ある国家が作られ内部の組織が整えられていく時期の話が扱われています。

2巻目ではペリクレスファビウス・マクシムス、アルキビアデス、コリオラヌス、ティモレオン、アエミリウス・パウルス、ペロピダスとマルケルスという人選ですが、この辺りになると世界史上重要な出来事に関わった人が登場してきます。ポエニ戦争においてローマの剣と盾と並び称される将軍2人、最盛期アテナイを率いた大政治家やテーバイを強国へ引き上げた指導者が出てくる一方でとその才能を祖国を危険に晒すことに使うことになった人物も登場します。なお、サイト更新時の参考にアエミリウス・パウルス伝は読んでいましたが、他の人物もなかなかに興味深いです。

そして3巻目ではアリステイデスと大カトー、フィロポイメンとティトゥスフラミニヌス、ピュロスとマリウス、リュサンドロスとスラという組み合わせです。ローマ側の人物の方は世界史でも名前が出てくる人がちらほらといますが、ギリシア側はちょっと小粒な印象も否めません。それでもなかなかに興味深い人々が描かれています。

国家の舵取りを担ったものから、戦で大巧をたてたもの、はたまた国家に反逆したものまで色々な人物を扱い、良いところも悪いところも印象的な彼らの姿から、いろいろと考えさせられるものは読んだ人それぞれにあるとおもいます。プルタルコスギリシアとローマの二人を対にし、時には比較も行っています。様々な観点からどちらが優れているのかといったことを論じています。彼が比較対象にする論点について、確かにそうだと思う点もあれば、そこが比較対象になるのはなぜなのか、そこまで重要なテーマなのかなどなど、現代の我々が読むと不思議に思うところもありますが、様々な個性、性格、能力、徳性を持った人々の生き様を示し、彼自身の評価もその合間に挟み込みつつも、読んだ人に考えさせるような内容もみられます。

様々な逸話を通じて人物を描き出す内容が、読みやすい訳文と適切な註のおかげでつかみやすくなっており、色々な人に是非手にとって読んでほしいとおもいます。そして、全部を通読するという形でなくとも、気になる人物の伝記をいくつか拾って読むという形でも十分楽しめるとおもいます。