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合田昌史「大航海時代の群像」山川出版社(世界史リブレット人)

ヨーロッパから各地への航海がおこなわれ、ヨーロッパの人々の世界の認識の拡大と、海外への進出へとむかうきっかけとなった大航海時代は、近世の始まりとして位置づけられます。一方で、大航海時代のヨーロッパからの各地への進出を中世の十字軍やレコンキスタといった中世ヨーロッパの拡大運動の流れに位置づけることも可能です。

本書では、ポルトガルの海外進出に焦点を絞り、初期の海外進出に関わった「航海王子」ことエンリケと、東回りの航路でインドまで行ったヴァスコ・ダ・ガマ、そしてポルトガル出身者ではありましたがスペインの支援のもと世界周航にでたマゼラン、この3人の業績をとりあげ、大航海時代を担った人々、そして大航海時代ポルトガル王国を描き出そうとしています。

本書では大航海時代のヨーロッパの海外進出について、経済的な面よりもむしろ十字軍運動のような中世的拡大の流れに位置づけて考えていくと言う姿勢を取ります。そして対外進出により個人、王朝・国家のステイタス向上を願う点でエンリケ、ガマ、マゼランの3人は共通する要素を持っていたと見ています。そして、そのような心性を描くにあたりマグリブ騎士修道会が鍵となると言う観点から本書は描かれています。

マグレブの地はレコンキスタを経験してきたイベリア半島の貴族にとっては武勲を挙げ、社会的上昇のチャンスを得る地であり、十字軍的な精神を発揮する場ととらえられていたようです。大西洋アフリカへの商業的進出について特権を付与され私的事業としてこれを推進したエンリケについても、彼自身は十字軍的なモロッコ方面での軍拡路線を進めることを強く望んでいたと考えられています。

そして、十字軍的な精神を盛りこむ「器」であり、海外拡大に大きな影響を与えたものとして騎士修道会があり、とくに15世紀末に海外拡大が進められ始めインド遠征が度々行われるようになると騎士修道会のメンバーが遠征隊や海外拠点の要職を占めるようになっていきます。ガマとマゼランの歩みに大きな違いが生じたのもこの騎士修道会との関わりの有無が大きかったと本書では捉えています。

本書ではエンリケ、ガマ、マゼランの活動をたどりながらポルトガルの海外拡大についてモロッコ軍拡路線の破局とも言うべきアルカサル・キビルの戦いまでを描きます。「二兎を追う者は一兎をも得ず」と言いますが、インド遠征など海外拡大と商業利益を求める活動を進め、要所を点で抑える「海上帝国」を作り上げる活動と、中世の十字軍的精神の発露ともいえるモロッコでの軍拡路線、この2つを隣国カスティーリャ、のちスペインの動向に気を遣いながら進めるというのは明らかにポルトガルの国力で対応できるレベルを超えたものであったでしょう。大航海時代の群像をとりあげながらポルトガルの儚いきらめきをコンパクトにまとめて書いた一冊という感じでしょうか。