まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

ローラン・ビネ(橘明美訳)「文明交錯」東京創元社

新大陸と旧大陸の結びつき、世界史の始まり、大航海時代とその後の動きについて伊はそのように言われたりもしています。一方でこの過程を通じ、ヨーロッパにより新大陸のアステカ帝国インカ帝国が征服され、さらに新大陸の先住民が疫病により打撃を受けたといったこともよく知られています。

スペインが銃や馬をもっていたこと、そして疫病をもたらしたことが新大陸の人々や社会に打撃を与え、征服を進めるうえで大きな影響を与えたと言うことが言われています。そういったものを知らなかったことが大きな意味を持っていたのですが、では、新大陸の人々がそういったものを既に知っていた場合に何が起きうるのか、逆に新大陸の人々がヨーロッパを征服することもあり得たのではないか。

本書はそのような設定の本、物語が展開していきます。第1部では今まさに日本では漫画「ヴィンランド・サガ」で描かれているノルマン人の新大陸到達とその後の展開が描かれています。北欧からやってきた人々が北米から南へ下り、南米大陸まで到達していくという展開です。その過程で新大陸の人々が旧大陸の鉄製武器や馬などに触れ、さらに病気についても経験していきます。

そこから時が流れた第2部ではコロンブスの日記という形で世界の流れがひっくり返っていく様子が描かれています。未開の地にたどり着いたと思っていたコロンブス一行を待ち受ける運命はなんとも皮肉なものがあります。そしてこの時に火器ももたらされていきます。

メインとなる第3部はインカ帝国の内戦に敗れたアタワルパ一行が大西洋を横断しヨーロッパに上陸、そしてスペイン王カルロス1世を虜とし、そこから神聖ローマ帝国皇帝にまでのしあがっていこうとする、その結末はどうなるのか、という展開が年代記形式で書かれます。

所々、実際のインカ帝国征服の場面を逆転したような描写も見られます。新大陸とヨーロッパの間の通商関係の構築、新大陸の貴金属がヨーロッパの動向を左右する等など、世界史ではよく出てくる事柄が、通常とは逆転した展開で描かれていきます。さらにアタワルパがヨーロッパで支配体制を固めていく際に、当時歴史上実際にあったことをひっくり返すような内容が作り上げられています。ただし、我々はインカとスペインだけに目が行っていますが終盤になるとメキシコの存在も現れます。メキシコにも旧大陸のいろいろな物が伝わっているという状況でインカとアステカがもしたたかったらどうなるだろうかというちょっとした仮想現実の世界が描かれています。

第4部は毛色が変わりセルバンテス、そしてエル・グレコがインカとアステカがヨーロッパにいる世界において活動する様子が描かれます。「レパントの海戦」についても、この仮想世界ならではの設定で描かれていきます。新天地に向かった二人がどのような道を歩むのか気になるところです。

以上のような内容ですが、読んだ人のなかにはシュミレーションゲーム「シヴィライゼーション」を思い起こした人も多いようです。自分がやったことがないので調べてみましたが、複数の文明から1つ選び、長い時間をかけてそれを発展させていく、その際に他の文明との接触、交流、征服なども起こる、そういうゲームのようです。本書を読んでいるとまさにインカを選んだプレイヤーがいかにして自分の文明を発展させ、他の文明を征服していくのかという、シミュレーションゲームをやっているような感じがしてきます。なお、あとがきを読むと、やはりこのゲームを意識している様子はタイトルにも現れているようです。

本書を通じ、サガや日記、年代記、そして書簡などさまざまな形を取りながらこの世界で起きた情報が伝えられ、一つの仮想の歴史が描かれていきます。それが非常に読みやすくかかれております。既にかなり内容に踏み込んだことを書いてしまっているような気もしますが、まずは自分で手に取って読んでみてほしい、そんな一冊です。