まずはこの辺は読んでみよう

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プルタルコス(城江良和訳)「英雄伝5」京都大学学術出版会(西洋古典叢書)

京都大学西洋古典叢書から、プルタルコスの「モラリア」が全訳され、「英雄伝」も新訳の刊行が続いています。4巻目は「ヒストリエ 」でおなじみ(?)のエウメネスが登場しましたが、世界史で普通に名前が出てくるレベルの人というとポンペイウスくらいという、少々地味なメンバーでしたが、5巻目となる今回の配本は、古代ギリシア・ローマの「英雄」として名前があがるであろう人物2人の伝記が冒頭にきます。そう、アレクサンドロス大王伝とカエサル伝が収録されています。

アレクサンドロス大王カエサルという、広大な帝国を征服した王とローマにおいて覇権を握った人物の伝記を並べるだけでなく、フォキオンと小カトーという困難な時代に国政の舵取りに関わった人物やアギスとクレオメネス、グラックス兄弟という貧窮にあえぐ民衆の救済や国家再建のため改革を試みて非業の死を遂げた人々、デモステネスとキケロというその人間性や政治家としての資質には少々どうかと思うところもあるが弁論の才に恵まれそれを遺憾なく発揮した人も掲載されています。

アレクサンドロス大王伝とカエサル伝はどちらもかなり分量が多く、アレクサンドロス大王伝だけで147頁、カエサル伝も110頁、この2人の伝記を読むだけでも十分なボリュームですが、他にも小カトー、キケログラックス兄弟などボリュームのある伝記が収められています。対応するフォキオン、デモステネス、アギスとクレオメネスはそれと比べると頁数は少ないですが、それでもエウメネス伝よりは多いです。

アレクサンドロス大王伝の分量が他を圧倒して多いということはべつとして、プルタルコスの記述はローマ時代の人物たちを描くときのほうが筆がのっているのか、分量もおおく、なんとなく描写もいきいきとし、登場人物たちのいろいろな面が描かれているような気がします。ギリシアの人物たちの描写もその人となりを伝える話が多く盛り込まれていて面白いのですが、やはり時間的な距離、参考できた文献の質量などが関係するのでしょうか、ローマ側の人物(小カトーやキケロ)の伝記の方がより面白く感じました。

この巻では、ローマが大きく変わりゆく時代やギリシアマケドニアの覇権のもとに入っていく時代を舞台に、その時代に生きた人々の波瀾万丈の生き様や人となりが面白く描き出されています。この翻訳で「英雄伝」は全6巻の予定となっていますが、「英雄伝」を読んでみたい、という人に対して、まず勧めるべき巻はこれだろうと思います。