まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

スティーブ・ブルサッテ(黒川耕大訳・土屋健監修)「恐竜の世界史」みすず書房

恐竜についての研究というと、ここ四半世紀の間に驚異的な勢いで研究が進み、新しい成果が上がっている分野と言って良いでしょう。かつては恐竜というと鱗に覆われた変温動物で動きも鈍く、頭も悪い大型爬虫類という認識であり、復元された恐竜の姿も直立歩行で尾を引きずって歩いていたりするといったものでした。

しかし、20世紀後半、終わりの間に研究が進み、そのような恐竜イメージはどんどん覆されていったことは、1993年の映画「ジュラシックパーク」に描かれた恐竜の姿でも明らかでしょう。猛スピードでジープを追撃するTーレックス、狡猾なベロキラプトルなどの姿に衝撃や恐怖を覚えた人もいるのではないでしょうか。しかし現実の研究はあの映画で描かれた恐竜像すら変更するような勢いで進んでいっています。Tーレックスはあそこまで早く走れない(でも最速40キロほど出るようですが)などなど、、、。

そんな恐竜ですが、本書では恐竜の先祖が登場した頃は非常に小さい爬虫類であったことが、足跡の化石を追いながら推測し、描き出されていきます。また、恐竜の先祖は地球の片隅でひっそり生きていた程度でしたが、三畳紀末の大絶滅により多くの生き物が死滅した地球上各地に広がり、さらに竜脚類のような巨大なものが現れたりするにいたりますが、巨大恐竜がその体を維持できたのはなぜか、成長速度はどの程度だったのかなどもしめされていきます。なお、恐竜の色や模様についても、最近の研究ではメラノソームというものを調べることで結構わかるようになっていたりするということも驚きです。最近の恐竜復元でかなり鮮やかな色がついているものがありますが、それなりに根拠があるということがわかりました。

そして、恐竜というとTーレックスといってもいいくらいの人気ですが、Tーレックスについても1章分をあてて詳しく描き出しています。一噛みで肉も骨も砕く圧倒的な力、筋肉ががっちりついた巨体、そしてかなり鋭い感覚と知能をもつという、Tーレックスに遭遇すること自体が悪夢としか言いようがない怪物であることが伝わってきます。

恐竜がどのように発展してきたのかを描くのがメインですが、それと同時にこの本で多く描かれているのは、世界各地で行われている恐竜に関する調査、新しい発見、それに関わる著者も含めた愉快な人々(なかなか強烈な方々が多いような気がします)の活動です。中国、アルゼンチン、ブラジル、アメリカ合衆国、ウズベキスタ、ポーランドなどなど、世界各地を舞台に恐竜についての新しい発見と新しい研究が生み出されている様子が描かれています。研究の世界のほんの一部ではありますが、どのようなことを行っているのかが伝わってきて面白かったです。

本書終盤、地球上で繁栄を極めた恐竜が絶滅した時に何が起きたのかを、恐竜の側の視点から具体的かつ鮮明に描き出しています。繁栄の極みにあった恐竜が急に滅んだのはなぜなのかといったことを考えた時、多様性の喪失と変化への耐性低下ということがありそうなのですが、これは恐竜に限ったことではないのでしょう。恐竜という一つの種の興亡を描いた一代記のようなほんでした。