まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

ジョゼ・ルイス・ペイショット(木下眞穂訳)「ガルヴェイアスの犬」新潮社

1984年1月、ポルトガルのガルヴェイアスという村に宇宙から謎の物体が落下してきます。落下とともに爆発が起き、村人たちは落ちた直後は現場を見て何事があったのか確認します。しかし、村人達は何があったのかも忘れ、何もなかったかのように日常生活へと復帰していきました(ただし、パンがまずくなったことは皆気にしています)。しかし、この出来事が村に大きな異変を起こしたことに気がついているモノがいました。それがこの村に暮らす多くの犬達です。

本書は、隕石が落ちた1984年1月と、同じ年の9月の二部構成をとり、ガルヴェイアスの老若男女と犬のさまざまな悲喜劇が描かれていきます。謎の物体落下をきっかけに展開される物語では、そこに暮らす人々のさまざまな姿が描き出されていきます。この物体落下が、硫黄の匂いを撒き散らすだけでなく、村人達の見えない姿を浮かび上がらせていきます。誰か特定の人物の視点からかたられているわけではなく、謎の語り手の視点から村人達の姿が明らかにされていくような描かれ方です。

若者達のカリスマ的存在のバイク修理工が人生における幸福の絶頂の瞬間と悲劇、50年間憎み続けた兄を殺してやろうと思い立った弟が兄との和解を遂げていたり、険悪な関係の女2人がいつの間にか懇ろになっている等、それぞれの結末ははっきりしない老若男女の物語が綴られています。どちらかというと悲劇的な物語が多いのですが、村人それぞれに物語があり、それがいろいろなところで結びつき、短編のようでありながら群像劇といった感じになっているようにかんじました。

さらに、異変に気付いていた犬たちのことを描き出した物語もあります。犬達の中にカサンドラという犬がおり、彼女(?)もまたちょっとしたことがきっかけで悲劇に見舞われますが、彼女(?)を登場キャラクターの一つとした、イエスの復活のパロディのような話もあったりします。

干ばつに見舞われ、雨乞いのためにトウモロコシがゆが振舞われたことが村人にどのような事態を引き起こしたのか、そして謎の物体の到来のころに授かったであろう新しい命の誕生が村人達に何を引き起こすのか、最終章をどう捉えるのかはなかなか難しいと思います。 広大な宇宙のなかではあまりにも小さく取るに足りないような場所でも、そこに暮らす一人一人の村人それぞれが背負っている人生の物語が存在しています。そして、ある出来事を語ろうとするとそれに関係する人の人生の物語も語られていくことになる、それが積み重なってできた一冊だとおもいます。一度で強い衝撃を受けるというよりも、何度か読み直しているうちに面白さが感じられるようになる一冊でした。