まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ(くぼたのぞみ訳)「なにかが首のまわりに」河出書房新社(河出文庫)

近年では、アメリカの大学のクリエイティブライティングコースで学んだ、いろいろな国にルーツを持つ人々が作家として様々な作品を書き、それが邦訳されるものも多くなってきました。ただし、日本で読まれるそういう作家さんの本は多くはデビュー作で、それ以外の作品がどれだけ紹介されているかというと、少々心もとないものがあります。

邦訳で読むかぎりでしかありませんが、往々にして出身地の文化や伝統にちなんだ題材、アイデンティティの問題など、扱われる題材がどの人もなんとなく似ているように感じてしまうところもあります。文章創作コースで、デビュー作をかくとなると、まずはその辺りが扱いやすいということなのかもしれません。それはそれで面白い本が多いので、翻訳されることはとてもありがたいです。しかし、邦訳がその一作だけで、それ以降は取り上げられない人も多いと思います。複数の作品が翻訳される人というのはなかなか少ないようです。

もちろん、複数の作品が紹介されている作家もおりその1人が本書の著者アディーチェもそうした作家の1人です。いずれしっかり読んで感想を書きたいと思う「半分登った黄色い太陽」と「アメリカーナ」、TEDのトークイベントで話題になり、邦訳された「男も女もみんなフェミニストでなきゃ」などで日本でも高い評価、評判を得た作家です。そのアディーチェの短編集が文庫化されました。

ナイジェリアを舞台にして、ナイジェリアの国情や歴史を反映したものもあれば、ナイジェリアとアメリカを行き来していたり、ナイジェリアからよそへ移動していった状況やアメリカでの暮らし替えが描かれるなど、物語の舞台となる世界はいろいろなものがあります。

そのような世界で生きる人々の出会いや価値観のすれ違い、ある状況下で悩み考える姿、自分を取り巻く世界を改めて見つめ直し行動を起こす人々の姿が描かれています。舞台となる世界になじみがなくとも、そこに現れた老若男女の姿や関係性は読んでいてそういうことはあるなあと納得がいく人が多いのではないでしょうか。そしてなにより、ストーリーテリングの巧さで引き込まれていくのではないかと思います。

個人的に読んで面白いと思ったのは、母親に甘やかされた駄目息子がふとしたことがきっかけで不当行為に正面から抗議するに至る、その流れの中での彼の変化が伝わってくる「セル・ワン」、過去と未来の場面のフラッシュバックを多用しつつある出来事を叙述していく「ひそかな経験」、アチェベの作品を違う視点から描くとこうなるのかなと思わせる「がんこな歴史家」と言った作品です。また、異なる背景の男女を隔てるものの大きさを痛感させられる表題作や、事実と異なることを語ったことの代償の大きさを感じさせる「明日は遠すぎて」は読み終わった後に重い物が残る作品でした。他の作品も刺激的で面白いので、是非読んでみて欲しいです。