現代イタリア文学というと、タブッキ、ブッツァーティ、エーコ、ギンズブルグ、カルヴィーノといったあたりの作家があがることが多いと思います。しかしここにあげた人々の活動した時期はおもに20世紀(エーコは21世紀に書いたものもありますが)で、21世紀に入ってもう20年近くたった時点で「現代イタリア文学」というには少々時間が空いてきているところもありますし、「今の」イタリアの雰囲気を反映した作品かというとちょっと違うような感じもします。
いつまでもタブッキ、カルヴィーノ、エーコだけをとりあげるのではなく、「現代イタリア文学」がどうなっているのかを知るために今のイタリアで作品を描いている人々を取り上げることは必要なことでしょう。そういったことから、本書では、初めて作品が邦訳される作家がほとんどを占めるという形で、今活躍している作家の短篇をあつめているようです。
内容は結構多岐にわたり、ジェンダーやセクシャリティーを扱った小説もあれば、イタリア社会における格差を取り上げた小説もあり、そして移民やアイデンティティをめぐる問題を描いた小説もあるなど、現代イタリアの人々が直面する諸問題をテーマとして書かれた短篇も結構含まれます。また、それとは違う幻想的な作品やかつて少年少女だった時代の記憶にまつわる物語、文学の力とは何かを考えさせられるようなものまで、実に色々な作品が収録されています。
くすりと笑いたくなる話から、果たしてこのあとどうなってしまうのだろうかと心配になる話、随分と生々しい肉感的な話も描かれています。また明確な終わりが描かれているわけではないがなんとなく明るい方向へ向かうような気配が感じられる話もあるなど、読後感はそれぞれの話によって随分と違います。話の方向性はいろいろありますが、日本文学とは違う視点で描かれた作品をいろいろ読むことで得られるものは多いと思います。海外文学の翻訳物というだけで敬遠する人もいるという残念な状況があるのは確かですが、こういった短篇から挑戦してみるのはいいのではないかと思います。翻訳も読みやすいですし。