まずはこの辺は読んでみよう

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ウンベルト・エーコ(堤康徳訳)「バウドリーノ(上・下)」岩波書店

薔薇の名前」、「フーコーの振り子」などで有名なウンベルト・エーコの久々の小説は、12世紀から13世紀の中世ヨーロッパを舞台とした、虚構と現実の 狭間が段々とよく分からなくなっていきながら展開される冒険小説のようなものでした。しかし単なる冒険小説としてざっと全体を読む意外にも楽しみ方は色々 とある作品だと思います。

物語は、まず第4回十字軍により攻略されたコンスタンティノープルが舞台となります。歴史家として後に名を残すニケタスを救ったのがこの物語の主人公バウ ドリーノで、彼がニケタス彼の数奇な半生を語る形で進んでいきます。イタリアの農民の子バウドリーノが、ひょんな事から神聖ローマ皇帝フリードリヒ1世の 養子となり、パリの大学で学んだり、北イタリア諸都市と神聖ローマの戦争に巻き込まれたりしていきます。そんな彼が司祭ヨハネの手紙の偽造したことから、 色々と厄介な問題が発生し(教皇と皇帝の関係等々)、実際にヨハネを捜しに旅に出ることになるのです。東方の脅威との遭遇のはてに彼は何を見いだすことに なるのか…、それは実際に読んでみて欲しいと思います。

まず、中世ヨーロッパ史について興味があればよりわかりやすくなります(神聖ローマ皇帝とイタリア都市の関係とか、ビザンツ帝国についてとか)また、この 小説において、当時の人々にとっての異世界である東方や古代に関する様々な伝承が下敷きとなっているようですが、その辺りについてさらに深く突っ込んで楽 しむことも可能でしょう。

とにかくまあ、怪しい話が満載ですが、バウドリーノのニケタスに対する語りもどこまでが嘘でどこからが本当なのか、虚実の境目が段々よく分からなくなって いきます。そもそも、話が大きく動き出すきっかけも、バウドリーノによる司祭ヨハネの手紙偽造だったりします。まあ、何と言いますか、話に尾ひれがつくの ではなく、先に尾ひれがあって、それに合わせて話が後から勝手に作られているような、そんな感じをうけました。まあ、とにかく面白いんで、読んでみて欲し いと思います。あまりあれこれ書くと、「ネタバレ」と言うことで怒られるかもしれないのでこのくらいにて。