まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

ジュディス・ヘリン「ビザンツ 驚くべき世界帝国』白水社

中世の地中海世界において1000年の長きにわたって存在したビザンツ帝国、しかし現代においてビザンツ帝国に対する扱いはあまり良くないところがありま す。byzantineという英語の単語にはずるがしこいとか複雑、陰険などの意味があるようですし、今年出た塩野七生「十字軍物語1」もビザンツについ てはかなりネガティブな印象を与えるような描き方をしていました。

そのビザンツ帝国について、近年の研究成果を盛りこみ、なおかつ読みやすくまとめた概説書が本書です。しかし、皇帝の列伝や事件史の羅列みたいな本ではな く、また無味乾燥な年代順に書いた通史とも違う、そして、テーマ史ともちがう、テーマ別編成になった通史とでも呼べばよい構成になっています。

目次を見ても、コンスタンティノープル東ローマ帝国、聖ソフィア教会、イコン、聖像破壊、バシレイオス2世、アンナ・コムネナなどなど、はっきりとビザ ンツ史に関係のある事柄がタイトルとなっている章もあれば、ローマ法とか、読み書きのできる社会、コスモポリタン社会、ヴェネツィアとフォーク等々、一見 したところどこにでも入りそうなものもあります。それぞれ、テーマごとに語っているのですが、重点的に詳しく書かれている時代には差があります。ある特定 のテーマに重点を置きつつ、それに関連する出来事や、その前後の状況なども可能な限り盛りこみ、テーマごとに読みながら、すべて読み終えてみると通史とし てビザンツ1000年の歴史に触れることができるように配慮されています。

個人的には、1204年のコンスタンティノープル陥落以降のビザンツの歴史を、単なる衰退の過程としてだけでなく、地方の状況に結構文を割いていたところ が印象に残っています。身分制社会のビザンツテッサロニキの「熱心党」のような物があったとは知りませんでした。あと、ミストラについてかなり頁を割い ていたような気もします(実は、途中まで断崖絶壁の修道院メテオラと混同していました…。我ながら恥ずかしい)。

また、ビザンツ文明が他の所に継承されていった様子(ロシア、トルコ、イタリア…)がなかなか興味深かったです。ビザンツと周辺諸文明の交流の様子がよくわかる1冊だと思います。