まずはこの辺は読んでみよう

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草原考古研究会(編)「ユーラシアの大草原を掘る」勉誠出版(アジア遊学)

世界の歴史においてユーラシア大陸内陸部の草原地帯の重要性は現在ではかなり多くの人々に認識されるようになっています。騎馬遊牧民たちが暮らし、時に大帝国が生まれ、「草原の道」を通じた東西の文物や人の流れが展開される、そうした歴史の研究は今も活発に進められています。

そんなユーラシア大陸内陸部の草原地帯で馬を家畜化し、騎乗するようになった人々がいたわけですが、馬を家畜化して騎乗するようになったのはいつ頃のことなのか、その起源をめぐって今もなお議論が続いています。またスキタイの起源についても、近年はユーラシア東方に期限があるという説が有力になってきています。また、草原の世界における青銅器時代鉄器時代についてもどこでそれを作っていたのかといったことも研究が進んでいます。

本書では、ユーラシア草原地域の考古学研究の問題の所在、研究の成果と今後の課題について、一般の読者にもわかるように紹介しています。第1部で先述のような草原考古学の状況を紹介した後、新石器時代から初期鉄器時代を扱う第2部、この地に暮らす人々の冶金技術をみる第3部、鹿石や青銅武器、石人など騎馬遊牧民が残した様々な文化的痕跡をとりあげる第4部、草原の道を舞台とした東西文化交流について蜻蛉玉や冠の飾りをとりあげたり、漆器や絹といった中国の文物が発見されることやビザンツの貨幣の存在から考える第5部、スキタイや匈奴サルマタイや突厥ウイグルといったこの地で活動した騎馬遊牧民の遺跡を見る第6部という構成になっています。

昨今、日本史関連の書籍だと「~の最前線」といったタイトルの書物で、いろいろな時代や出来事に関する研究の状況を紹介する書籍が多数出ていますが、本書は「ユーラシア草原考古学の最前線」とでもいうべき一冊になっていると思います。興味を持った章から好きなように読み進めていってもいい本ですが、やはり最初の総説は読んでおくと、その後の各論についての理解もより深まるのではないでしょうか。

本書全体を通じ、広大な草原地帯に人々が暮らし、様々な文化的痕跡を残してきたことや東西の文化交流に重要な役割を果たしてきたということを、発掘によって発見された数多くの遺物を通じて明らかにしています。調査対象となる地域の広さ、関係する国々の多さなど大変な面もありますが、なかなか面白い分野の研究だと思いました。草原の世界への入り口としてぜひ読んでみてほしい一冊です。