まずはこの辺は読んでみよう

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河江肖剰「ピラミッド・タウンを発掘する」新潮社

クフ王カフラー王メンカウラー王の残したギザの3大ピラミッドというと、エジプトをあつかう書籍では必ず写真も出てきますし、エジプトのイメージとし て強烈に刷り込まれている人も多いと思います。そして、巨大なピラミッドをめぐっては様々な学問的論争から怪しげな話まで多くの説が唱えられています。

本書は、ギザの3大ピラミッドの近くにある遺跡、「ピラミッド・タウン」の発掘をすすめる考古学者によるギザの3大ピラミッドについての書籍です。ピラ ミッドというとよく問題になる、どうやって作ったのかという問題を第1部で、なぜピラミッドを作ったのかという疑問を第2部、そしてピラミッドを作った 人々がどのような暮らしを営んでいたのかという問いに対しては第3部で分かりやすくまとめていきます。

ピラミッドに石を運ぶための傾斜路、花崗岩を加工するための技術を検討した第1部、キルヒャーニュートンといった人々の名も上がる第2部、そして著者が 実際に今発掘に関わっているギザの「ピラミッドタウン」の発掘成果や古代のパンの話など、ピラミッドを作った人々の話をあつかう第3部のうち、多くの人が 関心を持ちそうなのは第1部と第2部かもしれません。ピラミッドというと、とかく謎という部分が強調され、人々が色々な説を展開しているのは第1部や第2 部の内容だとおもいます。ピラミッドについては色々と怪しげな説がニューエイジ思想がらみで語られますが、本書を読むと古代の技術でピラミッドや石棺を作 ることは十分可能であることがわかります。また本書ではピラミッドは王墓として考えるのが妥当という、至極まっとうな結論になっています。

ギザの地が宗教的理念からも現実的な理由からもピラミッド建設に理想的な場所であり、そこにクフ王は原初の丘のイメージとしてピラミッドを作り、カフラー 王は父王のピラミッドも取り込む形で2つの山の間に日が沈む「アケト」の景観を作り上げ、メンカウラー王オシリス信仰も取り込む形でピラミッドを配置し ていった、ギザの3第ピラミッドの配置は最初から配置が決まっていたわけではなく、個別の王が色々とプランを考えて実行した結果成立したものだということ が示されていきます。

しかし、本書で著者が一番語りたかった内容は第3部でしょう。ピラミッド建設に関わった多くの人々が集まって暮らす、そして王たちもそこにいた「ピラミッ ドタウン」の存在があきらかになり、そこの発掘を通じて様々な発見があったこと、それと関連して古代のパンを作ってみる実験考古学から、ピラミッドで働く 人々について考えていくという内容で、非常に興味深く読みました。ピラミッド建設に関わる労働者がかなり多くの食糧配給を受けており、奴隷を酷使するのと は違う労働形態をとっていたことが推測できるようです。宝物や目立つ発見をすること出なく、地味な検証の積み重ねを通じて古代エジプト人の暮らしや考えを 明らかにしようという本書の姿勢は好感が持てます。

世間に多く見られる荒唐無稽なピラミッド本とは一線を画する興味深い一冊です。