まずはこの辺は読んでみよう

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仲丸英起「名誉としての議席 近世イングランドの議会と統治構造」慶應義塾大学出版会

日本の政治家達の中には大臣になれれば何でもいいという感じの人、単にえらくなれればいいと思っている人達も見られます。彼らを見ていると、一体何のため に議員をやっているのかと問い糾してみたい思いに駆られることもあります。議会政治というとよくその歴史的発展も含めて取り上げられるのがイギリス議会で すが、16世紀のイギリスにおいて、議員になることや議会で活動すると言うことはどのようなものだったのでしょうか。

本書は、エリザベス1世時代のイングランド議会について、議会にかんする儀礼(議会会場への更新、ウェストミンスター寺院での儀式など)を検討したり、議 員と選挙区の関係、議会における議事進行や業務、そして議員の議会活動がどの程度活発だったのか、そのようなことを書いている専門書です。儀礼の研究は当 時のイングランド王国がどのようになっているのかを人々に見える形で示す「表象」の面からアプローチしています。また、有力者が官職や地位をあたえ、それ を求めるジェントリ層以上の人々がそれをもらって働くという感じの関係「パトロネジ」にも注目しながら当時の議員の活動や議会の手続きの整備、議員と選挙 区の関係や議席の増加について分析し、当時の議会のあり方をしめしていきます。

読み終わってみると、議員になることが目的化している人というのは16世紀イギリスにも数多くいたことや、地位に就くことそのものが目的となってしまって いる人々が多かったこと、政府のほうでも官職や地位をあたえるかわりに人々を働かせようとするパトロネジの一環として下院議席の増加があったことなど、な かなか興味深い点が多く見受けられました。また、パトロネジとはいっても、議員達は有力者の意志に絶対服従というわけではなかった様子も窺えますし、下院 議長についても有力者が思うようにコントロールするために任命したと言うより、法律家として実務に有能であったために下院議長に任命されたと考えた方が良 さそうです。

絶対王政とはいいながら官僚機構の規模は小さく未整備であり(16~17世紀のフランスと比べ桁が一つ違います)、常備軍もとくにないイングランドにおい て、治安判事として無給で地方政治に積極的にジェントリ層が協力していたという話は良く出てきます。議員について本書では議員になること自体が目的とな り、さほど積極的に政治活動を行っていないという結論が出されていますが、治安判事についてもあまりまじめに働いていない者たちがいたということが序章で 触れられています。本書は議会制度についての書籍で、絶対王政全体の話をあつかっているわけではありませんが、当時の政治のあり方の一端が窺え、非常に興 味深いものでした。