まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

ジョージ・R・R・マーティン(岡部宏之訳)「七王国の玉座(改訂新版)」早川書房(早川文庫)

*改訂を改訳と書いてしまいました。ごめんなさい。
季節の変動が年単位でおこるウェスタロス大陸、そこで長年王座に就いてきたターガリエン家のエイリス“狂王”を諸侯たちが倒し、バラシオン家のロバートを王としてから有力諸侯の間の微妙なバランスの上に安定が保たれてきました。

このような状況で、国王ロバートがかつてともに戦った北方の名家スターク家の当主エダードに国王補佐役〈王の手〉への就任を頼みにやってきます。結局エ ダードは断り切れず、〈王の手〉を引き受けることになり、北のスターク家所領から南の王都キンズグ・ランディングへと向かうことになります。しかしこのこ とが、宮廷における権力闘争の引き金となるのですが…。

それと同時に大陸の北の辺境、「壁」の向こうでは異形の者たちが動き始め、海の向こうではターガリエン家の遺児ヴィセーリスが妹デナーリスを騎馬民族に嫁がせてその軍事力による王座奪回をねらうなど、王国の外でも何やら問題が発生しつつあります。

以上のような状況下で、様々な登場人物の視点から物語が語られていき、王国では遂に王座を巡る争いが始まったこと、そして海の向こうではデナーリスが騎馬 民族達を従えたこと、要はここから先の争いの序章に当たる内容が上下合わせて1400頁近い分量で書かれています。暴君が放伐され、新たな王が登場してめ でたしめでたし、と言うところで終わる話は多いですが、新たな王が登場した後でどうなったのかということを描いているところは普通のファンタジーとは違う ような気がします。

様々な登場人物が出てきていますが、この後の話で何となく中心というか目立ってきそうなのがエダード・スタークの私生児で「壁」の守りを担当する〈冥夜の 守人(ナイツ・ウォッチ)〉 となったジョン・スターク(ジョン・スノウ)、海の向こうではじめは兄の王座奪回の道具だったのが、いつしかターガリエン家の王としての資質を開花させつ つあるデナーリス・ターガリエン、そしてその姿ゆえに低く見られているがトリックスター的な立ち位置にいるティリオン・ラニスター、この3人ですね。読ん でいると、特定の登場人物が優遇されるという感じでなく、誰にでも死が訪れるような雰囲気のある本書でも、この3人についてはこの後、クライマックスに到 るまで残りそうな気がしますがどうなることか。また、この3人以外にも多くの興味深いキャラクターが登場しますが、その辺をこれから先どうやって描き分け ていくのかが楽しみです。

私はこの本をファンタジーのカテゴリーで理解していますが、本書は児童向けのファンタジーではありません〈決して岩波少年文庫などにははいらないでしょ う)。大勢の登場人物によって描かれているのは権謀術数、策略、そして死といったものであり、子ども向けでない描写が随所に見られ、ネット上での感想を見 ていても、その辺に引っかかりを覚え、本書に対してかなり否定的な評価を下している感想もありました。描写の問題は別として、最近の子どもでも漫画やライ トノベル等々でかなり凝った設定のもの、ハードな内容のものを読んでいる子もいるだろうし、登場人物が多くて混乱すると言うところさえ何とかできれば読み 通せるとは思いますが。