阿刀田高さんというと、数多くの小説やショートショート、エッセイから古典をわかりやすく紹介するような本まで色々と書いています。そんな阿刀田高さんが アレクサンドロス大王を主人公とした小説をかいています。基本的に、アレクサンドロスについて史実をベースにしながらフィクションを交え、時々エッセー風 の叙述も挟み込まれるという構成になっています。
本書では、アリストテレスとの出会いがアレクサンドロスに大きな影響を与えたという視点で書かれています。周囲のほとんどの人間には計り知れない何か(闇 と表現されることがあります)を内に抱えながら、アリストテレスにいわれた真なるものを探し続け、善なるものを追い求め、東へと遠征を続けるアレクサンド ロスの鮮烈で短い生涯が描かれています。
ミエザでともに学んだアレクサンドロスの仲間達については、皆かれと年齢が比較的近いという設定になっていて、彼らの存在がこの物語の中でも非常に重要な 意味を持つ描き方になっています。複数の登場人物が登場するこの物語ですが、ミエザの仲間達については、彼ら個々人の描き分けはほどよく仕上がっていると 思います。また彼に関わった女性陣については、バルシネに対して、かなり好意的な描かれ方がしている気がしました。アレクサンドロスの数少ない理解者の一 人という感じですね。
アレクサンドロスというと良く出てくる友人にヘファイステイオンがいます。彼については不思議な予知能力めいた物を持ち、ただ一人彼のことを理解でき、な おかつ彼のためならば汚れ仕事もいとわないという設定です。まさに「もう一人のアレクサンドロス」という扱いですね。光と影、とでもいえばいい描き方でし た。
当然小説なので、色々とフィクションは交えていますし、時々著者のエッセーも挟み込まれ脱線するところもありますが、アレクサンドロスを主人公とした小説 ではかなり読みやすいしおもしろい一冊です。現在は絶版になってしまっているようですが、おもしろいので読んでみてほしいと思います。