まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

岩明均「ヒストリエ」第8巻、講談社

アレクサンドロス大王の書記官をつとめたエウメネスを主人公とした岩明均ヒストリエ」、これまでに文化庁メディア芸術祭の漫画部門で大賞を受賞しただけ でなく、手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞している作品です。しかし、マンガ大賞をとったときには新刊はでていないうえ、休載が多いという状況でした。そ して、第7巻がでたのが2011年11月、それから1年と9か月くらいたって、ようやく8巻がでました。

今回は、大体このような内容が含まれています。

・ビュザンティオン、ペリントスの包囲戦がはじましました。マケドニアの攻城機械の威力をいきなり見せつけていますが、どちらの都市も粘り強く抵抗。結果は如何に…?
・攻めるマケドニア軍に対して、アテネは切り札フォキオンを投入します。まあ、カレスじゃちょっと頼りないし…。果たしてこれによって戦局はどう動く?
・今回は攻城戦、海戦、陸戦、そして行軍中の不意打ちなど、戦を扱った話が多く見られます。軍団をきっちり書こうとすると確かに大変だよなあとは思いますが。
・今回はミエザの愉快な仲間達の出番は無し。しかしこの後の東方遠征で名前が出てくる人達もちらほらと。
・はたしてエウリュディケはどうなる?史実だと過酷な運命が待ち受けているのですが…。

今回はビュザンティオン、ペリントスの包囲から話がスタートしています。アテネはカレスだけではなくフォキオンも投入してきました。たしかにこのマンガで かかれているカレスだと、ちょっと大局的なものの見方はできなさそうだし、乗りで突っ込んでいきそうな雰囲気もあったりで問題がありそうですし、フォキオ ン投入しかないでしょうね。

フォキオンについて、“平和主義者”とこのマンガではいわれていますが、別に軍事力を行使しないというわけではなく、必要以上に軍を動かすことはしない、 とりあえず目標を達成できる範囲での武力行使にとどめていくというタイプのようです。カレスがなんか調子のいいこと言って勝手に突っ走りそうなのと比べる とえらい違いです。はたして、これ以降フォキオンがアテネマケドニア間の争いにおいてどういう振る舞いを見せることになるのか、その辺りも書かれるとい いなあと思います。個人的には、フォキオンがカイロネイアの戦いにノータッチなのは何でなんだろうかと気になっているので、そこら辺の所の話をうまく作っ てみてくれるといいなあと願っています。

そして、この巻ではマケドニア軍の様々な戦いが描かれていきます。都市を包囲して攻城機をつかったり、穴を掘って都市の城壁を崩しにかかったりする包囲戦 だけでなく、マケドニアの海軍とアテネの海軍が激突したり、さらにスキタイ人との戦いもおこります。そしてスキタイ遠征の帰り道で、トラキア系のトリバッ ロイ人の襲撃を受けるのですが、ここでエウメネスの軍事の才の一端が示されています。

他の将兵と比べかなり冷静に判断を下してトリバッロイ人を追い返すことはできましたが、実際に軍を動かしてぶつけるだけが戦いではなく、そこに部隊を配置 することで圧力をかけて撤退に追い込むという手法は上手いなあと思いますね(実際にそういうことがあったのかどうかは別ですが)。たいていの人はマケドニ ア軍の兵士達同様に近くのことしか目に入らなくなるような気がしますが、彼のように非常事態においても全体を見ようとする、そして実際に見えているような 人は希有な才能をもちあわせているのだと思いますね。ただ、他方で他の人と折り合いをつけるのに苦労しそうな気もします。

今回、アテネペルシャ帝国に支援を求め、ペルシア側もギリシア人傭兵部隊を展開してマケドニアに圧力をかけるという場面が書かれていました。ギリシア人 とペルシア帝国というとペルシア戦争等々があったので、ずっと対立して争っていたように思うかもしれませんが、必ずしもそういうわけではありません。アテ ネ、マケドニアの争いにペルシア帝国もからんだ紀元前4世紀後半の地中海世界がこの物語の中でどのように描かれていくのかも楽しみなところです。メムノ ン、バルシネも久し振りに出てきましたし。あと、エウリュディケとエウメネスがなんかいい雰囲気なのですが、この後の過酷な運命をなまじ知ってしまってい ると、見ていてなんか心苦しさを覚えます。

今回、第8巻がでるまでに1年と9ヶ月くらいかかりました。8巻の最後の話が出てから半年くらい休載していたので話は動いていません。なので、9巻が一体いつ頃出るのか、今から非常に気になっています。しかし、せっかくなので、皆さん、話がちょっと停滞しているこの機会にアッリアノス「アレクサンドロス大王東征記」や、澤田典子「アレクサンドロス大王」森谷公俊「アレクサンドロスとオリュンピアス」原随園「アレクサンドロス大王の父」なんかも読んでみてはどうでしょうか。そこで扱われている材料を著者がどういう風に料理するのかを楽しみに待つことにします。