まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

岩明均「ヒストリエ」9巻、講談社

アレクサンドロス大王の書記官を務めたエウメネスの生涯を題材とした漫画「ヒストリエ」、第8巻がでたのが2013年の夏、そしてようやく第9巻が出まし た。連載も原則隔月連載、しかも単行本作業が入ると長期間休みに突入するというなか、ずいぶんと新刊が出るまで待ったような気がします。

今回は大体こう言う内容が掲載されています。

・アッタロスさんに死亡フラグ?!
エウメネス、念願のアテネへ(ただし仕事で)
・懐かしい人々、懐かしい風景(?)
・さぁ、運命の瞬間です、カイロネイアの合戦開始。

8巻後半でのエウメネスの活躍については、もろもろの事情で第一功労者はアッタロスと言うことにしてもらったようです。なんとなく、アッタロスさんの扱い が毛利小五郎のような感じに見えてしまいますね。そして、ペラにご機嫌伺いに来たヘカタイオスとエウメネスの間でのいざこざに、アッタロスさんも関わるこ とに。手柄のことや、このことが後でアッタロスさんに災難にならなければよいのですが、どうなるのでしょう。それにしても、娘とエウメネスの関係について はどこまでアッタロスさんは分かっているんでしょうか。随分深い関係になってしまっているのですが。

場面は変わり、アンティパトロスの密命を受けて、エウメネス一行はアテネへ。目的はフォキオンとの接触ですが、ペイライエウス(ピレウス)でエウメネスは 懐かしいある人物と再会します。エウメネスもそうですが、彼もまた色々あって、今の地位を築いていったのですね。そして、彼にとってはエウメネスは特別な 存在なんだなと言うことがよく分かるコマがありました。仕事の合間に、ちょこちょことアテネを見て回りつつ、本屋で買い物をしていたりするのは息抜きシー ンでしょう。

また、アンティパトロスがなかなか意味深な言葉を発しつつ、エウメネスとのやりとりを通じて、想定以上にエウメネスが頭が切れる事に気がつきます。アン ティパトロスも、後々エウメネスがなんか面倒な存在になりそうだと思うようになるのでしょうか。そうなったときに、エウメネスの宮廷での立ち位置はどうな るのか、色々と心配になってくる話の展開でした。

そして、いよいよカイロネイアへ。まずは序盤の攻防からはじまります。そして、最後のコマのアレクサンドロス王子の狂気を感じさせる表情にはぞくっとくる ものがありました。この巻には収録されていない1話分(王子が第1陣を率いることになる話)と、連載再開分の2話分までの流れを読むと、「ひょっとして… 出たのか? いや…違うな これこそが王子だ!」と別の巻(滝を飛び越える場面)のレオンナトスのような気持ちになってきます。はたしてこの王子のうごき により戦いはどういう展開をたどるのかは連載がもう少し進んでからの楽しみということで取っておくしかないわけですが。※この段落は7月19日に加筆して 分離しました。

この巻でマケドニアがギリシア世界の覇権を握ることになるカイロネイアの戦いが始まります。この戦いについてはアレクサンドロス東征中 の大規模合戦と比べると資料が少なく、大まかな流れしかつかめていません。しかし、最初のフィリッポスの動きにつられてしまうカレスはだめだろう。ここに フォキオンがいたら、また違う結果になったのでしょうけれど、実際に参加していません。なお、カイロネイアの戦いについては、
澤田典子「アテネ最期の輝き」の序章で、戦いの大まかな流れについては知る事ができます。そして、デモステネスが対マケドニアでどのような演説をしてきたのかについては、デモステネス「弁論集1」「弁論集2」あたりを読むとよく分かるのではないでしょうか。

なお、「ヒストリエ」9巻とほぼ同じ時期、京都大学学術出版会よりプルタルコス「英雄伝4」という本が出ています。こちらに待望のエウメネス伝画が収録さ れています。ちくま学芸文庫にはエウメネス伝はありませんでしたし、岩波文庫にはありますが品切れ重版未定のため、これが出たおかげで、ようやく邦訳でエ ウメネス伝が手に取りやすくなりました。値段は高いですが、読んでみると面白いと思います。もっとも、プルタルコスエウメネス評(エウメネス伝はセルト リウス伝とセットになっており、両者の比較が最後にまとめられています)は少しエウメネスに対し厳しすぎないかと(そしてセルトリウスに甘くないかと)思 いますが。