まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

指昭博(編)「ヘンリ8世の迷宮 イギリスのルネサンス君主」昭和堂

本当は7月中にアップする予定でしたが、大幅に遅れました。

ヘンリ8世というと、宗教改革とか、6人の奥さんとか、そういう話が良く出てきます。ここ数年の間だと日本でも「ブーリン家の姉妹」とかででてきたり、海 外ドラマでTudorsというのがCSかなにかで放送されていたらしいとか、そこそこみかけることがある人物です。去年出た本だと、ヒラリー・マンテル 「ウルフ・ホール」でもでてきていました。

ヘンリ8世が好色な暴君なのか、有能な君主だったのか、はたまた有力政治家にいいように使われるだけだったのか、彼のイメージは正直なところいろいろある ようです。ただ、個人にかんするイメージが先行していて、実際の処彼の時代のイングランドってどんな感じだったのと聞かれても何だかよく分からないと思い ます。そんなヘンリ8世の時代についての入門書として、近世イギリス史の専門家たちが書いてまとめたのが本書です。

ヘンリ8世の6人の奥さんについての話や(娘メアリと6人の奥さんがどう言う関係にあったのかという処から書こうとしています)、宗教改革についての話も もちろん出てきますが、ルネサンス時代の君主としてのヘンリのイメージ、ヘンリと周辺国の関係、この時代の議会や儀礼、そういったことにも触れています。

当時の社会や政治についての話もなかなか興味深いのですが、ヘンリ8世がどのように描かれ/書かれてきたのかという話がなかなか面白かったです。治世の間 は勇敢な君主、イングランドの民を導く神聖な国王、そのようなイメージがもたれていたようですが、それが後の時代になると、知的だが尊大で冷酷な君主へ、 さらに「青髭」のモデルのような扱いになったりと、時代によって色々と変わっていった様子が窺えます。知的/尊大/冷酷、その辺りのイメージは20世紀に なると映画によってさらに増幅され定着したようです。また、ヘンリ8世というと、がっしりとした体格で大柄なホルバインの肖像画のイメージが非常に強烈に 焼き付いているのですが、実は若い頃はすらっとした美丈夫だったことをうかがわせる肖像画ものこっていたりしますが、若い頃からああだったというイメージ で既に固定されているような感もあります。

彼の事績とその評価を巡って、今もなお色々な見方が出されていますが、本書では、ヘンリ8世とその時代についての入門書という性格からか、その辺は比較的 抑えた感じで書いている人が多いように感じました。しかし、執筆者の中に一人だけ、はっきりと「能力はともかく野心ばかりはやたらと大きかった」と書いて いる人もいます。ヘンリ8世という人物をどう評価するのかは小説やドラマでかかれている以上に難しい物があるのかなという気がしています。彼に限らず、あ る人物をどのように描くのか、捉えるのか、と言うことは洋の東西を問わず難しい問題のようです。そういったことを感じる一冊でした。