まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

高畠純夫・齋藤貴弘・竹内一博「図説古代ギリシアの暮らし」河出書房新社

古代ギリシアの歴史というと、アテネの民主政やスパルタの国政など、ポリスの政治制度の歴史やペルシア戦争ペロポネソス戦争といった戦争、政治的な出来事の歴史から、ポリスで暮らす人々についての社会史的な研究、さらに古代ギリシア人が様々な事象をどのように考えていたのかを探るような研究まで色々とあります。

では、古代ギリシアの人々がどのような服をまとい、何を食べ、どのような家に暮らしていたのか、ポリスでどのような職業についていたのか、そして「戦士の共同体」のような面を持つポリスでどのように軍隊を編成していたのかといったことだけでなく、彼らが日々の生活でどのような娯楽に興じていたのか、氏とどのように向き合ってきたのか、どのような宗教を信じてきたのかといったことを一般向けにまとめた本が多くあったかというと、結構古い本を参考にしないといけない時もありました。

本書は紀元前5世紀から前4世紀のアテナイという、文献や発掘による出土資料がギリシアの中では極めて豊富なポリスを舞台にして、そこで人々はどのような暮らしを送っていたのかということを、豊富な図版とともにわかりやすく描き出して生きます。

アテナイ市民の誕生から成長、結婚、そして死というライフサイクルがどのようなものであったのかを、陶器にかかれた図像やテラコッタ、墓碑といったものを使いながら描き出す章があり、社会上層部といってもよい富裕層から商人や職人、農民、奴隷、在留外人などアテナイで暮らしていた人々について説明し、市民が兵士を務めるアテナイでどのようにして軍を編成していたのかを述べたり、ポリスの外へ活動の場を求めた人々にも目を配った章があり、そして人々が身につけたり使っていた道具や食事、そして宗教に関してまとめた章がある、それを読むことで、アテナイで暮らしていた人々について、具体的なイメージをつかみやすくなると思える内容になっています。

また、所々に挟み込まれたコラムは本文では拾いきれない内容をフォローしています。アテナイでも水道管のようなものが作られているところがあったというのはなかなか興味深かったです。またローマのような街道整備はないものの、道はあり、ちょこちょこポリスの外へ出ていたらしい(ただし治安は極めて悪い)ということもなかなか興味深いです。そして、アテナイの自然環境について、どのような動植物がいたのかといったコラムもまた面白いものでした。

史資料の制約もあり、アテナイの話で完結している一冊ではありますが、古代ギリシアについて興味がある人は、彼らがどのような暮らしを送りながら、あのような政治体制を作り上げ、思想や文学を残していったのかに想いを馳せるうえで読んでおくと、より理解しやすくなるのではないかと思います。また、古代ギリシアで何か創作をしようと思う人も読んでみましょう。