まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

今月のお薦め

木村靖二(編)「1919年 現代への模索」山川出版社(歴史の転換期)

山川出版社の「歴史の転換期」シリーズも残すところあとわずかとなってきました。今回出たのは1919年、現代という未だ人によって評価や判断の基準が定まらない時期をあつかいます。 「現代とは何か」といわれたときに、これだという明確な指標や定義という者…

ウィリアム・ダルリンプル(小坂恵理訳)「略奪の帝国 東インド会社の興亡(上・下)」河出書房新社

イギリス東インド会社というと、ヨーロッパの重商主義政策の展開や、イギリスによるインド植民地化の話でかならず登場する勢力です。イギリス東インド会社がインドに進出を図ったのは17世紀、インドはムガル帝国のもとで繁栄を極めていました。それが、18世…

中村隆文「物語スコットランドの歴史」中央公論新社

中央公論新社の『物語○○の歴史』シリーズは、読みやすくなかなか興味深い国々や地域が扱われており、多くの場合は一定のクオリティは備えているものが多いと思います(たまに一寸内容のバランスがどうなのかとか思うところもあるのですが、大体の傾向の話で…

加藤玄「ジャンヌ・ダルクと百年戦争」山川出版社(世界史リブレット人)

現代日本のゲームやアニメ、漫画、小説など、ポップカルチャーの世界において人気のある歴史上の人物というと、ジャンヌ・ダルクはそのなかでも相当上位にランクする人物だと思われます。神の声を聞いたとして故郷を出発し、オルレアン包囲線を戦い抜き、シ…

森山光太郎「隷王戦記3 エルジャムカの神判」早川書房(ハヤカワ文庫)

021年春に刊行が開始された「隷王戦記」、第3巻がようやく出ました。第3巻ですが、第2巻終了時点から時は少し経過したところから物語はスタートします。「戦の民」をまとめあげ、ついに「隷王」の地位に叙されたカイエン、それに従うカイエンの部下達やとも…

藪耕太郎「柔術狂時代」朝日新聞出版(朝日選書)

「柔術」というと、柔道の原型であるとか、20世紀末より注目を集めたブラジリアン柔術といったイメージが強いかと思われます。嘉納治五郎が講道館柔道を作り上げ、それを日本から世界へ普及させようとしていた20世紀初頭、アメリカにおいて柔術が一大ブーム…

デイヴィド・アブラフィア(高山博監訳、佐藤昇・藤崎衛・田瀬望訳)「地中海と人間 I•II」藤原書店

人類と海の関わりは古代から現代まで様々な形がとられ、海の世界を題材とした本は色々なものが出されています。そのなかでも地中海というと、ブローデル「地中海」が代表的な著作として取り上げられることが多いです。地中海の環境、社会、そして出来事、こ…

清水亮「中世武士 畠山重忠」吉川弘文館

2022年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」は源頼朝による鎌倉幕府設立と、鎌倉幕府初期の抗争や承久の乱で勝利者となった北条義時を扱った物語です。そこには鎌倉時代初期の有力武士たちも数多く登場しますが、その一人として畠山重忠という武士がいます。知勇兼…

前田弘毅「アッバース1世」山川出版社(世界史リブレット人)

世界史リブレット久しぶりの新刊はイランのサファヴィー朝中興の祖、アッバース1世となりました。昔自分のサイトでアッバース1世の話題を取り上げた時には彼について扱った本がなく(その後、デイヴィッド・ブロー「アッバース大王」が出ましたが、記事を書…

リュドミラ・ウリツカヤ(前田和泉訳)「緑の天幕」新潮社

ソヴィエト社会主義共和国連邦がまだ外の世界からは輝きを持って見られていた頃、ある学校にてイリヤ、サーニャ、ミーハの3人が出会いました。3人とも学校社会のなかでは傍流に属する(今風に言えばスクールカースト下層か)ものの、如才なく振る舞うイリヤ…

山田貴司「ガラシャ つくられた「戦国のヒロイン」」平凡社

戦国時代に活躍した女性をあげろと言われると、数年前の大河ドラマをみていたり戦国時代に関心がある人だと、今年の春に本が出た寿桂尼の名があがるかもしれません(自分のブログでも感想を書きました)。しかし、一般的な知名度ではキリスト教に入信した大…

エドワード・J・ワッツ(中西恭子訳)「ヒュパティア 後期ローマ帝国の女性知識人」白水社

キリスト教が公認、やがて国教となっていく流れの中、伝統的多神教の信仰もなお続けられている後期ローマ帝国のアレクサンドリア。そこで優れた数学者・哲学者として活躍し、当時の政界や宗教界の要人となるような優れた弟子を輩出した女性がいました。そし…

籾山明「増補版 漢帝国と辺境社会」志学社

漢帝国と匈奴の抗争の最前線となったエリアから、漢代の木簡が多数出土しています。そこには長城付近というフロンティアで暮らす人々の姿がうかがい知れる内容が記録されていました。そうした木簡や遺跡をもとにして、漢帝国の辺境支配の様子を描き出してい…

柿沼陽平「古代中国の24時間」中央公論新社(中公新書)

歴史の本というと、政治や軍事に関する出来事の歴史であったり、グローバルヒストリーのような大まかな構造をつかむようなものであったり、そのような本がある一方で、日々の生活の様子を綴ったようなかなり細かい事柄を扱った本もあります。しかしそういう…

篠原道法「古代アテナイ社会と外国人」関西学院大学出版会

古代ギリシアのポリスというと、世界史では大抵アテナイの事例がとりあげられます。アテナイというとポリスの可能性を極限まで実現した徹底した直接民主政ですとか、市民間の平等、奴隷制に立脚した社会、そして市民団の閉鎖性といったことがしばしば取り上…

ジョゼ・サラマーゴ(木下眞穂訳)「象の旅」書肆侃侃房

時は16世紀、海洋帝国ポルトガルの国王ジョアン3世はオーストリア大公マクシミリアンへの贈り物をどうするか考え、インド象を送ることにしました。その名もソロモンというインド象と象使いのスブッロは兵士達に守られながらリスボンを出てウィーンへ向かいま…

会田大輔「南北朝時代 五胡十六国から隋の統一まで」中央公論新社(中公新書)

魏・呉・蜀の三国鼎立は晋により統一され、中国は再び統一王朝による支配となりました。しかし晋による統一は短期間におわり、華北は五胡十六国時代と呼ばれる分裂の時代、江南以下南部では司馬氏による晋の支配という状況に突入します。4世紀の動乱の時代か…

エリック・ジェイガー(栗木さつき訳)「最後の決闘裁判」早川書房(ハヤカワ文庫NF)

ヨーロッパを舞台とした物語では、「ローエングリン」序盤ではエルザが身の潔白を証明してくれる騎士が現れると言うと実際に彼女のために戦う騎士が登場し、スコット「アイヴァンホー」ではテンプル騎士団員誘惑の罪状で裁判で死刑判決をうけたユダヤ人レベ…

金原保夫「トラキアの考古学」同成社

古代ギリシア・マケドニアの歴史をあつかっていると、トラキアおよびトラキア人という用語はよく登場します。現在のブルガリアを中心に勢力を持っていた集団ですが、彼らについて日本語でまとまって読める文献というのはこれまで少なく、あるとすると展覧会…

森三樹三郎「梁の武帝 仏教王朝の悲劇」法蔵館(法蔵館文庫)

中国の南北朝時代の歴史を学ぶとき、南朝というと東晋以下宋斉梁陳という王朝が続き、貴族たちの力が強いということや貴族が担い手となる六朝文化といったことを習います。そのなかで、梁の武帝というと世界史用語的にはまず出てこない人物ですが(『文選』…

森山光太郎「隷王戦記2 カイクバードの裁定」早川書房(ハヤカワ文庫)

早川書房からこの春だされた「隷王戦記」、全3巻構成(予定)の第1巻では主人公カイエン・フルースィーヤが一敗地にまみれ、すべてを失ったところから再起し、バアルベクの新太守マイや仲間達と新たな目標に向けて歩み出すところで終わりました。それから1年…

井上文則「シルクロードとローマ帝国の興亡」文藝春秋(文春新書)

ユーラシア大陸の東西にローマ帝国と漢帝国が形成された時代、ユーラシアの東西を結ぶシルクロード交易が展開されました(なお、本書ではシルクロードをアジアとヨーロッパ、あるいはアフリカを結んだユーラシア大陸の交易路の総称として用いています)。そ…

フィリップ・リーヴ(井辻朱美訳)「アーサー王ここに眠る」東京創元社

アーサー王伝説というと、これまでに色々な翻案がなされ、様々な媒体で描き出されていますし、それに触発された作品も色々とみられます。多くの人々の創作意欲をかき立てるということでは、非常に大きな影響力を持つ物語だとおもいます。 本書もまた、アーサ…

葛兆光(橋本昭典訳)「中国は“中国”なのか 「宅茲中国」のイメージと現実」東方書店

「中国」という言葉でイメージされる領域はどこからどこまでを指すのか。また中国をどのように捉えるのか。初出は紀元前11世紀の青銅器銘文である「中国」という言葉にはさまざまなイメージがこれまで投影されてきました。 「中国」とはなにかという問いに対…

ウォルター・テヴィス(小澤身和子訳)「クイーンズ・ギャンビット」新潮社(新潮文庫)

最近ではテレビや映画で最初に流されるのではなく、Netflixなど動画配信サービスからで配信された作品がテレビで放送されたり、アカデミー賞でも候補に挙がってくるなど、ネットでの動画配信が盛んになり、若い世代に関して言うと恐らくネット配信の方が中心…

福山佑子「ダムナティオ・メモリアエ」岩波書店

古代ローマ社会では、自らの業績を誇示するモニュメントや生前の業績を刻んだ墓碑、一族の祖先たちの蝋製肖像など様々な形で過去についてのメモリア(記録、記憶といったもの)が公に残されてきました。一方で、悪しき者とされたものについては、のちの研究…

マデリン・ミラー(野沢佳織訳)「キルケ」作品社

ギリシアの叙事詩「オデュッセイア」に、キルケという魔女が登場します。オデュッセウスの部下たちに酒を飲ませて彼らを豚に変えたり、オデュッセウスには魔法が効かず、結局部下を人間に戻したことや、オデュッセウスが一年キルケのもとに滞在して一子テレ…

プルタルコス(城江良和訳)「英雄伝6」京都大学学術出版会(西洋古典叢書)

京都大学学術出版会会の西洋古典叢書からプルタルコス「英雄伝」の翻訳が出始めてから大部立ちました。途中で訳者の柳沼重剛先生がなくなられ、訳者の交替がありましたが無事6巻で完結と言うことになりました。最終刊の6巻では、デメトリオス・ポリオルケテ…

合田昌史「大航海時代の群像」山川出版社(世界史リブレット人)

ヨーロッパから各地への航海がおこなわれ、ヨーロッパの人々の世界の認識の拡大と、海外への進出へとむかうきっかけとなった大航海時代は、近世の始まりとして位置づけられます。一方で、大航海時代のヨーロッパからの各地への進出を中世の十字軍やレコンキ…

小関隆「イギリス1960年代 ビートルズからサッチャーへ」中央公論新社(中公新書)

1960年代のイギリス、ビートルズが世界的人気を獲得し、ロンドンがファッションの流行発信地となり「スウィンギング・ロンドン」という言葉が登場、若者文化が花開いた時代でした。また、性の解放などが進み今までの社会では認められなかったものが認められ…