まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

加藤玄「ジャンヌ・ダルクと百年戦争」山川出版社(世界史リブレット人)

現代日本のゲームやアニメ、漫画、小説など、ポップカルチャーの世界において人気のある歴史上の人物というと、ジャンヌ・ダルクはそのなかでも相当上位にランクする人物だと思われます。神の声を聞いたとして故郷を出発し、オルレアン包囲線を戦い抜き、シャルル7世を助け、窮地のフランスを救いながら、最後は捕らえられ異端裁判にかけられ処刑されるという非常に短い期間に閃光を放つその生涯は多くの人に強い印象を与えています。

では、ジャンヌについて、「真の」ジャンヌ像を描くことが出来るのかと言うと、それは極めて困難な者であると言うことが本書ではまず語られています。生前からジャンヌをどう捕らえるのかは人によって様々であったことや、異端裁判や復権へのプロセスで見られる様々な史料もそれぞれの立場から書かれており、どの史料を使うかによってジャンヌ像は大きく変わることになるなど、

ジャンヌ・ダルクが登場する以前の英仏関係および百年戦争の展開を最初にまとめ、ジャンヌの生涯をあつかいますが、重きを置いているのはジャンヌが同時代にどのように人々から見られていたのか、そして処刑された後、彼女がどのように受容されていったのかと言うことです。

分量としてはわずかな彼女の生涯について扱った部分を読んで印象に残るのは、この時代に預言者として扱われる人々が何人も登場しているということ、そしてジャンヌもそういった預言者の一人としてあつかわれたこと、ただし彼女は一般的な預言者は違い、自ら予告した事柄に積極的に参加しようとするところや、騎士のスタイルをとり公的な発言権と行動の自由を確保して自らの使命を完遂刷るまで男装を通したといったところでしょうか。当時の社会通念や規範を超えたところで活動する彼女は非常に興味深い存在だと思います。

短くも非常に鮮烈な印象を残す彼女の生涯については史料的制約もあり分量は少なく、彼女その者について知りたいという人にはあまりむかない一冊となっています。一方で彼女が生前から様々な語られ方をしてきたことや、その後の世界でどのように受容されてきたのかなど、「受容史」を扱った本として読むと面白く読めると思います。