まずはこの辺は読んでみよう

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エドワード・ケアリー(古屋美登里訳)「肺都(アイアマンガー三部作3)」東京創元社

今年に読んだ外国文学の中で、特に引き込まれたものとしてエドワード・ケアリーの「堆塵館」「穢れの町」があります。独特なイラストが目を引き、一風変わった世界を舞台にしていながらも読み始めたらあっという間に引き込まれ、次の展開が非常に気になる終わり方のため次の巻が待ち遠しい作品でした。そして今年も終わり近くになり、三部作の3巻目が満を持して登場しました。

前作の終わりで、クロッドとルーシーの二人は又してもはぐれてしまったうえ、ここまでの物語の舞台であった「穢れの町」ことフィルチング地区と、アイアマンガー一族が暮らす「堆塵館」はどちらも失われてしまっています。そして館を失ったアイアマンガー一族はロンドンへと移り住み、ある人の館を住まいとするようになっていました。そして彼らがやってきた頃より、ロンドンの町は暗闇に閉ざされ、町では気がつくとものがポツンと置いてあるという奇妙な出来事が多発するようになります。

そして、ロンドンに集結したアイアマンガー一族は、ある日の朝にウェストミンスター橋に集合して何かをやらかそうと計画しています。前作の最後でルーシーと逸れたクロッドも、他の一族にはない力を身につけ、その中に参加しています。しかし、彼は彼で一族の棟梁ウンビットなどとは違う思惑を抱いているようです。

さらに、ルーシーもまたロンドンにたどりつき、クロッドを探し回りますが、穢れの町から逃げてきた人々はロンドンではなにやら危険視されているようです。ルーシーもいつしか指名手配扱いになり、危機に遭遇しつつもロンドンの浮浪少年たちを中心とする「角灯(カンテラ)団」との出会い、協力を得つつクロッドを探しまわります。

この三部作では、クロッドとルーシーの出会いがこの世界の理に変化を生じさせ始め、人々の運命にも大きな影響を与えてきたことが書かれていますが、今回は物語終盤まで二人は全く別に動いており、ようやく出会えたときはこの世界が極めて重大な局面にあるところでした。ヴィクトリア女王も巻き込むような大事件のなか、はたしてクロッドとルーシーはどうなるのか、そしてアイアマンガー一族到来後、異常事態が続くロンドンの町はどうなるのか、読み始めた途端話の中に引き込まれ、最後まで一気に読みきってしまいました。

この三部作はクロッドとルーシーの出会いが様々な騒動を呼び起こし、それまでと世界のあり方を一変させるという物語の基本的な流れがあり、そうした「ボーイ・ミーツ・ガール」の話事態は決して珍しいものではないと思います。しかし、人とモノが頻繁に入れ替わるという奇妙な設定を通じ、人とは何なのだろうと考えるきっかけになる人がいるかもしれません。特に、ローランド・カリスの死の場面は人を人たらしめるものは何なのか、人であることを選ぶことが幸せなのか、考えさせられるところがありました。

そして、エンディングをどのように解釈するのか、いろいろな人に聞いてみたいと思います。はたしてあの二人は人なのかモノなのか、、、。