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ジェフリ・オブ・モンマス「ブリタニア列王史」南雲堂フェニックス

中世騎士道物語の一つであり、日本ではおそらくもっとも有名であろう「アーサー王伝説」については、マロリーの「アーサー王の死」やディズニー映画「王様 の剣」、大作史劇が瞬間的にブーム到来したときにできた「キング・アーサー」など、さまざまな形で受容されています(物語の設定やモチーフを借用したもの を含めるとさらに増える)。

その「アーサー王伝説」の泉源となる話はどこから来ているのかというと、遙か昔に遡ればブリタニアの年代記(ネンニウス、ギルダス)あたりになりますが、 それらの年代記などをソースとしながらまとめられた本が12世紀に登場し、それがその後のアーサー王伝説に影響を与えることになったようです。その本こ そ、ジェフリ・オブ・モンマスが書いた「ブリタニア列王史」です。

本書の構成は、まずトロイア戦争の英雄アイネイアースの子孫ブルートゥスが罪を犯してイタリア半島をおわれ、その後ギリシアに到達してトロイア人たちを解 放し、マウリタニア(アフリカ)、アクィタニア(今のフランス南西部)をへてブリテン島へと到達します。そして彼以降、代々続くブリタニアの王たちの系譜 と、その時々に起きた出来事をまとめ、最後はサクソン人によりブリタニア人がブリテン島を追われるまでを扱っていきます。

王の年代記ということで、「Aが王として**年統治し、その後Bが王に即位し、Bが没した後は兄弟のCとDが争い…」と言った内容が続くわけですが、それ を一本の軸として、そこに王族同士の対立抗争、外部からの助力、そして他民族によるブリテン島への攻撃、ブリタニア王による周辺国への遠征と勝利、征服な どの出来事が付け加えられていきます。

本書はブリトン人の栄枯盛衰をつつった歴史書の体裁をとっていますが、現在の歴史学の専門書のような本ではなく、歴史的な事柄と伝承めいた事柄がミックス されているような本です。たとえば、カエサルクラウディウスの遠征の話が相当形が変わっていても掲載されている一方で、モルウィドゥス王という王の時 代、残虐行為を繰り返したときに、一匹の怪物が沿岸地帯を荒らし回り、王が怪物と戦ったものの最後は食われてしまったという話が載せられています。

ブリタニアの年代記や聖人伝、吟遊詩人の死といった様々なところから材料を集めて作り上げた「ブリタニア列王史」には、アーサー王伝説のもととなる物語が かなり多く掲載されていることは先ほど触れましたが、そのほかにもシェイクスピアリア王」のもととなった話(ただし、シェイクスピアは直接モンマスを参 照していない)も掲載されています。王の系譜を追いかけるのはかなりやっかいですし、似たような名前の人物が次々登場し、混乱することもあると思います。 しかし、マーリンの予言からウーサー・ペンドランゴンの登場、そしてアーサー王といった本書のかなりをしめる部分のみならず、その合間に書かれた栄枯盛衰 の物語はなかなか面白く読めると思います。