まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

ディノ・ブッツァーティ「神を見た犬」光文社(古典新訳文庫)

光文社の古典新訳文庫では「猫とともに去りぬ」を前回紹介しました。今回紹介する「神を見た犬」もまた、イタリアの短編集ですが、「猫~」がどちらかというとほのぼのとした感じの話が多かった(このへんはロダーリが児童文学作家だからでしょうか)のに対し、「神を~」のほうはより不条理な感じを与える話、恐怖感を感じさせる話が多いように思います(勿論、そうでない話も入っていますが)。

 

表題作の「神を見た犬」は、イタリアのある村に現れた隠修士の元に毎日パンを運ぶ一匹の野良犬の話です。隠修士が死んだ後も野良犬ガレオーネが村を徘徊し、あたかも不道徳な村人たちを監視しているかのような彼の姿に、村人たちは神を見た者、神の化身として畏れを抱くようになり、いつの間にか不道徳な振る舞いは村から消えていく。そして、ガレオーネが死んで埋めに行った時に人々が見た物は…、という、何とも不思議な感じを与える話です。

 

また、最後の方に掲載されている「戦艦〈死〉」は第2次大戦中のドイツにおいて極秘裏に行われた「作戦第9000号」で召集された何千人もの戦士がどうなったのか、その謎を探っていくと言う話で、密かに建造されていた巨大戦艦と乗組員の辿った道は不条理としか言いようがない話でした。

 

この本の中では何とも不気味な感じを与える話がいくつかありましたが、特に怖いのが「七階」ですね。自分では大したことがないと思って入院したのに、周りに言われるまま過ごした結果、どんどん追い込まれていって最後は悲惨な運命が待ち受けていたという、非常に恐ろしい話で、色々と考えさせられるところもあります。

 

また、「コロンブレ」はその鮫にであったら一生命を狙われ続けると言われた男が、人生の終わりが近づいて鮫と戦いに海にでたら…、という展開で、非常に皮肉な結末になっています。周りに言われるがままに過ごしてきたことがもたらした皮肉な結末のように感じました。

 

その他、読んでいて何とも苦い後味が残るのがポケットから次々お金が出てくるが、ニュースを見ていてそれがどこからきてるのかを知ってしまう「呪われた背広」という話です。人の不幸の上に成り立つ自分の幸せって何だろう…。

 

こうやって挙げていくと、怖い話と変な話ばかりなのかと思われるかもしれませんが、色々な生き物を想像する中で、神が人間を作った「天地創造」や下界の若者たちの姿を見てそこに入りたいと願う聖人を描いた「天国からの脱落」(何となく「ベルリン・天使の歌」を思いおこさせるのは気のせいでしょうか)のように読後に何とも心地よい物を感じさせる話もありますし、仲間たちに疎んじられ一人になった山賊団の元首領がたった一人で護送大隊を襲撃する「護送大隊襲撃」の終わりの方は少し切なさを感じさせます。あと、「グランドホテルの廊下」はコントだろうと思います。

 

今回挙げた話意外にも色々面白い話はあるので、手にとって読んでみてほしい1冊です。