まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

魚豊「チ。 地球の運動について」1巻〜3巻、小学館

現代の科学では地動説というのは当たり前のこととして多くの人に認識されています。しかしそれが認められるまでには様々な紆余曲折を経ていることも知られています。かつては地球が中心であるとする天動説が正しいとされていたものが、色々と調査研究を重ねた結果、太陽の周りを地球が回っている、それも楕円の軌道であると言うことが示されるようになった結果です。

その「様々な紆余曲折」で何があったのか、それに関して、話を膨らませながら描き出す漫画が連載されていると言うことを最近知りました。「地動説」という一つの真理の証明が宗教を支える世界観を揺るがしかねないものであれば、それを押さえ込もうと迫害が行われることにもなります。しかし、それでも真理の探究に惹かれていく人々の姿が描かれています。

才能があり周りが言うとおりに神学を選んでいれば社会で学のある人物としてうまくやっていけたであろう若者や長年火星の観測をしていた代闘士と彼から色々な物を託された同僚、天文の方に踏み込んだが故に左遷され田舎の教会でくすぶる修道士、自らも研究をしたいが己の性別故に認められない才能有る女性など、社会的な立場は全く違う人々が真理に魅せられ、それを求めて生きる姿には惹かれるものがあります。

なお、本書で描かれているような地動説に対するキリスト教側の過酷な迫害というのが実際にあったのかというと、少々微妙なようです。コペルニクス以降の地動説を巡る宗教家と科学者の対立という物語については、実際にはそういう状況だったのかというと、それは違うと言うことが示されています(このブログでも以前感想を書いたプリンチペ『科学革命』でその辺りは頁を割いて触れられています。コペルニクスの著作についても教会関係者が発表をせかしたり、彼の体系の講義を教皇枢機卿相手に行った人物がいたりもします)。

本書の場合は15世紀前半、コペルニクスが登場する以前の時代に舞台を設定しており、コペルニクスの時代とはまた違う状況にあったのだろうと想像出来る余地を残しつつ、真理に魂を惹かれ、例えそれにより命を落とすことになっても真理の探求を求める人々の姿、受け継がれる人間の意志といったものを描く非常に面白い作品だと思います。3冊まとめて購入し、一気に読み切った後、また何度も繰り返して読んで楽しめる作品です。今後どのような展開を見せるのか、1巻冒頭のかなりショッキングな構図はこの後どの場面で現れてくるのか、非常に気になるところです。