まずはこの辺は読んでみよう

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島田竜登(編著)「1683年 近世世界の変容」山川出版社(歴史の転換期)

山川出版社の「歴史の転換期」も5冊目の配本となりました。タイトルの1683年はユーラシアの西ではオスマン帝国による第二次ウィーン包囲の失敗の年であり、東では鄭氏台湾が清朝に屈服し、清朝が明の残存勢力を制圧し、中国をまとめ上げた年です。本書は、この年の前後の時期の各地域の様子を描きながら、近世世界がこの時期の前後で変わっていくことを描く論考が掲載されています。

扱われている内容は、中国のジャンク貿易が盛んになることや扱われる商品も奢侈品ではないものが増えていくことなどアジア貿易の変容についてまとめている章であったり、結論部分のまとめに少々疑問と違和感を感じるものの内容は興味深いあるアルメニア人改宗者の遍歴から近世の宗教事情について考えたりする章があります。

また、バッカニアの襲撃や植民地の先住民逃亡に悩むスペイン領ユカタン半島において、それまでの植民地に対する考え方を徐々に変えて実効支配への転換が進んだことを論じた章や、清朝時代の福建省の社会を、省都の福州に収斂する地方官、地方士大夫、商人、地主、佃戸のそれぞれの社会空間の分析から描いた章、そして重商主義時代の植民地貿易のあり方を、それを規定するイギリスの航海法(複数ある)をみつつ検討する章もあります。

内容としては、経済活動や植民地との関わりをかいたものが多く、昨今流行りのグローバルヒストリーを相当意識した作りになっていると思います。そちら方面の話題が豊富なので、興味がある人は面白く読めるかと思います。政治や文化といったことについては正直内容が薄いので、そこのところは他の本で補強する必要はあるでしょう。

取り上げられている話題で興味深いものもあり、アユタヤ朝時代のタイから中国商人のジャンク船が長崎までやってきていたこと、そして長崎に通詞と通事がおり、後者はアジア系言語(イラン系言語もふくまれる)に対応していたということは初めて知りました。長崎にはオランダと中国の商人だけがやってきていたということはよく言われていますが、「中国商人」の出自を探ると、思った以上に広がりがありそうです。