まずはこの辺は読んでみよう

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島田竜登(編)「1789年 自由を求める時代」山川出版社(歴史の転換期)

山川出版社の歴史の転換期シリーズの第3回配本は、1789年というタイトルです。このタイトルを見た瞬間に、多くの人がこれはフランス革命とそれがその後の世界に与えた影響であったり、ヨーロッパ近代の話が多くなると思うかもしれません。しかし、本書の構成はタイトルから予想されるものとは違うものです。

まず、フランス革命のことが思い浮かぶタイトルですが、それに直接関係する内容は第1章のみとなっています。その第1章も、人権宣言を手掛かりに、カトリックが支配的宗教だった近世がおわり、礼拝の自由やカトリック以外の宗派・宗教の公認がすすんだこと、さらに「支配的宗教」がなくなってから、学術研究や教育が発展していくことや、美術館が近代に発展する背景にどのようなことがあったのかといったことがあつかわれています。普通のフランス近世・近代史とは違う切り口で非常に面白い内容でした。

そして、この後はヨーロッパだけにとらわれず、ヨーロッパ諸国とアメリカ・太平洋世界であったり、東南アジアやインド洋、さらにアフリカや大西洋世界との関わりのなかで、広域にわたる経済的なつながりと、そこを舞台に展開された人々が「自由」を求める様子が描かれていきます。

毛皮を求めたロシアが太平洋世界やアメリカに進出した頃、他のヨーロッパ諸国も北太平洋世界へと進出し、アメリカにおけるスペインの「独占」の崩壊と環太平洋規模での交易の活発化がえがかれています。キャフタ貿易(露清間交易)にも接続する世界が描かれており、あまり詳しく知っている世界を知ることができる非常に興味深い内容でした。

詳しく知っているわけではない世界の一端をうかがい知る楽しみという点では、第3章の東南アジアの話も同様です。昨今、高校世界史の世界でもかなり詳しく語られるため、16世紀から17世紀のアジア交易については、色々と知られるようになっています。しかし、それが一旦終わった後の18世紀についてはあまりきちんと伝えられているような感じはしません。この章では、18世紀を「華人の世紀」として表し、中国商人の東南アジア進出、中国など様々な国で大衆消費社会が成長したことによる貿易の活発化と、東南アジア現地の人々やオランダなどヨーロッパ勢力の動向がまとめられています。この地域でも、オランダによる管理統制に対し貿易の自由を求める動きが見られることが示されていると思います。

アジア貿易に参入した勢力としてイギリス東インド会社もありますが、東インド会社の貿易独占が崩れていく様子を描いたのが第4章です。そして、ヨーロッパ諸国が大西洋三角貿易で大量の奴隷をアフリカから購入し、それをカリブ海アメリカで労働力として使っていたが、奴隷貿易奴隷制度が廃止に向かういっぽうで、それが別な不自由労働を生み出したことを示す第5章が本書の締めとなっています。「自由」を求める動きが活発化した時代、ある人々が自由になると、別の人々が不自由になるという、「自由」を求める時代の陰の部分が描かれている章だと思いました。

タイトルを見るとヨーロッパの話だけになりそうですが、バランスよくアジア、アフリカ、アメリカも絡めた構成になっており、世界のつながりが強くなっていくなかで何が起きていたのかを知ることができる一冊だと思います。