まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

ジュリー・オオツカ(岩本正恵・小竹由美子訳)「屋根裏の仏さま」新潮社

かつて、日本からアメリカに渡り、アメリカに住む日本人のもとに嫁いだ女性たちがいました。夫となる人の写真、そして自分はうまくやっているという情報の みを頼りにアメリカに嫁いでいった彼女たちは、事実上だまされるような形でアメリカへ連れてこられ、結婚し、初夜を迎えることになります。失望ととも始 まった結婚生活、農園での労働や白人家庭での女中奉公などに従事しながら、子供を生み育て、あるいは失う経験をするなどの人生を歩んでいきます。

彼女たちは、日本人に対する(というより有色人種全般に対する)偏見にさらされつつ、一生懸命に働き、平穏な暮らしを築いていきますが、それは日本とアメリカの戦争によりうしなわれ、彼女たちは砂漠のなかの日系人収容所へと送り込まれることになるのです。

しまったまま出されることのなくなった着物、アメリカの生活に馴染んでいき、親たちのことを奇妙に思う子供達(西洋風の名を名乗るものもでてきます)、そ してタイトルにある屋根裏に置かれた仏様の像などの記述があります。アメリカに移住する中で日本に関係するものはだんだんと失っていくけれど、それは決し てなくなるのでなく、どこか心の片隅にそれがのこっているというところに、移り住んだ先の社会への同化と自分の文化的ルーツの保持という、移民全般につい て考えられるテーマが現れているように感じました。

ここで語られる物語は、日本から嫁いだ女性たちがアメリカ社会で暮らしていく物語が基本ですが、最終章では一転して彼女たちが暮らすアメリカ社会の人々を とおして、日本人がいなくなった街の様子が語られています(「いなくなった」の章)。語る際に、誰か特定の個人がかたるというスタイルではなく、「わたし たち」という主語でいろいろなことが語られていきます。少し切れ切れな感じのする文章で「わたしたち」にまとめられた個人の語りがつづられていき、そのよ うな個人の語りが集まり、日本人女性たちの苦難の物語が出来上がっていく様子は、上流で降った雨粒が集まり、一つの川となっていくようです。