まずはこの辺は読んでみよう

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大牟田章「アレクサンドロス大王 「世界」をめざした巨大な情念(新訂版)」清水書院

最近では森谷公俊先生が様々な著作を発表し、6月にはプルタルコスの訳と註を出すという具合ですが、それ以前にアレクサンドロス大王について専門的に研究していたのは大牟田章先生くらいのものでした。以前、このブログでも紹介したアッリアノスの翻訳および註の元となった東海大学出版会(現・出版部)の大著はアレクサンドロス研究において、まず目に通した方が良い本です。

そんな大牟田先生が40年ほど前に書かれたアレクサンドロス大王の伝記が最近になり新訂版として出版されました。内容については旧版(1976年、1984年の本)とかわったところはありません。文字の大きさや行間、本の大きさや紙質が変わった程度です。

内容、構成としては、アレクサンドロス登場以前の状況からはじまり、若き日のアレクサンドロス、王に即位してから東方遠征に乗り出すまでの時期、東方遠征の開始とペルシア帝国との戦い、そしてペルシア帝国滅亡後も続くさらなる遠征と帰還をたどっていく、アレクサンドロスの伝記としてスタンダードな構成となっています。最近の研究成果に基づく森谷公俊「アレクサンドロスの征服と神話」や、森谷公俊「図説アレクサンドロス大王」のように特定のトピックに焦点を当てる構成となっている本もよいのですが、最初にアレクサンドロスの伝記として読む上では本書はごくごくスタンダードでとっつきやすいのではないでしょうか。

まだヴェルギナ王墓が見つかっていない時点での執筆であり、その後の研究同行まではさすがに反映されているという訳ではないのですが、本書を改めて読み返してみると、軍旅をつうじ、ただひたすら、エゴイスティックに己の「誉れ」を追い求め続けた結果、新しい時代への道を開いていた征服者の姿が立ち上がってきます。歴史的な事柄をしるとなると、やはり40年前の著作の復刊ということで新しい本で知識的なアップデートが必要なところもあります。しかし、一人の人間の生き様を面白く読ませるということではまだまだ十分魅力がある本だろうと思います。